恵梨香の煩悩

 恵梨香の住む世界は仏教なら欲界で満足よ。食欲も色欲も極めてやるんだ。康太と美味しい物を食べたって誰も迷惑する訳じゃないし、康太と、どんなに燃え上がろうが夫婦だから何の遠慮もいらないよ。


「恵梨香の今の極楽は?」

「康太とのベッドの上」


 そりゃ浄土じゃないけど、あれこそ極楽だもの。あれ以上の極楽がこの世にあるものか。恵梨香の極楽はピンクに染まってるの。でもちょっと不安が、


「康太は満足してくれてる?」

「満足してなきゃ、恵梨香をあれだけ求めないよ」


 恵梨香もそう。毎晩だってウエルカム。恵梨香の夢は極楽が果てしなく続くこと。夕食を済ませてマッタリしている時に、


「ところで康太は、恵梨香がどうなれば本当に満足してくれる」


 康太はニッコリ笑って、


「満足したらダメだと思うんだ。満足と思ってしまえば退屈になる。恵梨香の可能性は無限だと思ってるし、無限の恵梨香をさらに満足させて行くのがボクの願いだよ」

「じゃあ、もっとがあるの」

「ああ、あると思ってる。お互い浄土には行けないね」


 康太が恵梨香を愛してくれる時にそう感じる。今の恵梨香の反応に満足しつつも、恵梨香を次にどうしようかを常に見極めてる感じがあるのよ。そう、もっともっと高いところに恵梨香を連れて行こうしてる。


 今だって半狂乱になってるようなものだけど、康太はそれを終着駅なんて思っていない。あくまでも次のステップへの準備としか感じられないもの。でも嬉しい、そうなれる恵梨香が嬉しい。


 康太とは夫婦だけど、夫婦だからのアレへのタブーはない。熱中しだしたらまさに全開だもの。全力で受け止めて、全力で感じて、全力で喜ぶ。どんな痴態になろうとも、すべては喜びへのエッセンス。でもね、どうしても心の奥底で残ってしまうのは、


「どうして恵梨香だったの」

「またぁ、誰が恵梨香を選んだと思ってるんだよ」


 この言葉がお世辞じゃないのは結婚して以来、ずっと証明し続けてくれている。それはベッドだけじゃない、生活のすべてで示してくれる。これが夢じゃなくて現実世界なんだよ。毎日がバラ色に輝き過ぎて怖いぐらい。プロポーズを受けた日から恵梨香の人生は変わったんだ。



 康太が恵梨香の後ろに回ってくる。康太の好きな姿勢だよ。康太の左腕が恵梨香を抱きかかえるようにして立たせるんだ。そこから恵梨香を振り向かせて熱すぎる口づけ。それだけで恵梨香は体に力が入らなくなっちゃうのよ。


 それとパジャマ越しでも雄々しい康太を背中に感じちゃうんだよ。そうされるのが恵梨香が弱いって知り抜かれてるのよね。でも今夜はダメだって、朝もあれだけ恵梨香を堪能させてくれたんだから、たまには休まないと。


「ホントに休みたい?」


 だからダメだって。恵梨香は康太の体が心配なの。康太がスタンバイOKなのは恵梨香の背中が教えてくれるけど、たまには休養日を取らないと康太だって若くないじゃない。あえて休みを取らせるのも、妻である恵梨香の務めだよ。


 康太は最愛の人であるけど、恵梨香は妻でもある。妻の役割には夫である康太の健康管理もある。食欲は満喫したいけど、日々のメニューは恵梨香も気を付けてるんだよ。美食だけに耽って成人病にでもなったら困るじゃない。


 そう健康であってこそ二人の幸せを満喫できるってこと。運動だって康太も気を付けてるけど、恵梨香だってそう。ハイキングもそうだけど、ジムに二人で行って汗を流したりもしてるんだ。


 アレはやりたい。でもね、何事もっていうじゃない。康太が求めてくれるのは嬉しいし、恵梨香も応じたくてウズウズしてる。でも自制は必要。それぐらい恵梨香もちゃんと考えてるもの。いくら欲しくとも一日に二回戦はやり過ぎ。明日からの二人のハッピータイムのためにも・・・


 だから右手の指をそこに動かしたらダメだって。もうブラも付けてないからダイレクトだよ。そこは弱いんだから、そっちもだよ、そこも、そこも・・・・・・ああん、そこだけは、そこだけは絶対ダメ。恵梨香もOKなのがバレちゃったじゃない。


 もう全部康太に知られてる。恵梨香のどこが弱点かって。それだけじゃない、康太に新たに開発された弱点もたくさんある。康太はね、ただ突っ込むだけの男じゃない、恵梨香の体を隅々まで愛してくれる。それも丹念に、丹念に。そうやって恵梨香の体を次々に開発してくれるんだ。



 あれっ、なんてこと、恵梨香の体はどうなってるの。今までと全然違う。まだ前戯の導入段階じゃない。パジャマだって着てるし、立ったまま。本格的になるのは、ここからベッドに移ってから。


 この段階でも恵梨香の体は燃え上がってくるけど、たった、これだけで、恵梨香は、まさか、まさか、いやまさかじゃない。これは、いくらなんでも止めなきゃ、我慢しなくちゃ。でも止まらないよ、我慢なんてできないよ。康太が耳元で、


「恵梨香、愛してるよ」


 ダメェェェ・・・蕩けた。ウソでしょ、ウソでしょ、でも康太の指は止まらない。指先が恵梨香をいくらでも感じさせ続ける。待ってよ、待ってよ、このままで次とか。ヤバイよもう来ちゃうよ。これ以上は、いくら恵梨香でも恥しすぎるじゃない、


「康太、ちょっと待って!」


 遅かった、さっきより大きく蕩けた。ヤバイもう次がそこまで来てる・・・・・・こんなものどうしようもないじゃない。ああダメ、このままじゃ、ウンと言うまで蕩けさせ続けられる。声が止められない、


「ダメェェェ」


 さっきよりさらに大きいのが蕩けた。次が、次が、いくらでも押し寄せてくる。それも、どんどん大きくなってる。もう膝がガクガクで立ってられない。恵梨香の体は新たな段階に確実に進んでる。康太は恵梨香にこうなって欲しかったの?


「恵梨香はまた可愛くなったよ」


 恵梨香は康太の期待を裏切ってない。康太になって欲しい女にまたなったんだ。嬉しい。でもこれで康太が入ってきたら・・・・・・もう素直になろう。今夜も欲しかったんだ。どんな世界でも恵梨香は康太となら怖くない。


「さあ、行こうか」

「うん」


 色欲最高、恵梨香の煩悩極楽世界に突撃。さすがに明日の朝はないよね。あっても、もちろん受けるけど。どうせ目覚めた時にはフルコースが待ってるだけだし。恵梨香がそうなって欲しいのが康太の望みなら、そうなるのが妻に選ばれた恵梨香の務めだ。

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