第三話〔西木 草成さま作〕

 真央と忍が親友になった、きっかけは至って単純だった。今から二年前の高校入学、座席がたまたま近かった彼女が、真央の机を覗き込んだのが始まりだった。オタクが教室で人に見られたくないものを読むときの常套手段である、ブックカバー。しかし、結局のところ中身を読まれてしまえば全く意味のないことなのだ。


『あ、可愛い絵』

『え……あっ! これは、いやっ……』

 突然声をかけられ、思わず手に持っていた「文学少女と月花を孕く水妖」をカバンの中にぶち込んだ。しかし、その拍子にフックから外れたカバンから数冊のライトノベルが床に散らばってしまった。さらに、それらにはブックカバーがされておらずそれぞれ表紙がむき出しの状態になっておりより一層慌てた真央は周りから見られないように体で覆い被さりながら本を隠す。


 インキャ、オタクと呼ばれる人種は自身の趣味や収集、それらに対して労を執る人物ではあるがそれ以上にそれらの趣味に対して自信が持てない人種でもある。入学一番でオタクと見られた暁には、これからの高校生活三年間を暗く過ごすことになるかもしれない。

 そんな一抹の不安が、彼女を行動させたのだ。しかし、真央に声をかけた少女はこぼれ出たラノベの表紙を見たあと。その目を怯えた表情をした真央に向けた。

『ねぇ、これ。有名なやつでしょ? 私、名前だけ知ってるんだけど内容よく知らないんだよねぇ〜』

『……SAO?』

『え? エス? エー?』

『……あ、ソードアートオンライン……です。よね?』

『ウンウン。もしかして、全巻持ってたりする系?』

『……一応……最新刊までなら……全部……』

『ねぇ、今度貸してよっ!』


 これが、全てのきっかけだった。少女の名は【葉山 忍】といい、その後持ってきたソードアートオンライン全27巻をあっという間に読破してしまった。共通の話題で理解を深め、議論であったり推しについて話をする頃にはすでに互いのことにはある程度打ち解けていた。

『ねぇ、他に面白いものってないの? 西尾維新さんとか読んで見たいなぁ〜』

『……吸血鬼の幼女が君と同じ名前だけど……ちょっと待って……』

 学校の教室の端で二人。昼食の時間は、二人の意見交換の時間であり本の貸し出しの時間でもあった。一年生も終わるとき、真央は一つの決意を胸にして忍に一冊の本を手渡した。

『……これ……』

『ん? なんか見たことない表紙。作者は……魔王? すっごい名前』

『忍……これ、

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