第3話 彼女が私を突き飛ばした理由②

 何度、「もう大丈夫だから」と言っても、周りが聞かず、1週間ほどして学園に登校した私は、「ラティー、ごめんね?」という軽い謝罪の言葉と共に、ユーフェリアに迎えられた。

 彼女の取り巻き達に囲まれて、無視するわけにもいかず、私は無言で頷いた。

「……リア」

「なあに?」

「もう、私が王子に話しかけられても、突き飛ばさないでくれる?」

 私の言葉に、ユーフェリアではなく、取り巻き達が凍りつくのが分かった。

 ユーフェリアは、スッと目を細めると、

「ラティー、それはあなた次第かな?」

 と笑顔を崩すことなく言った。

 そう、あの日は、入学式の余興で、簡単なダンスパーティーが開かれていた。王子が学園中の女子達と1曲ずつ踊ることになっていて、ユーフェリアの嫉妬深さを知っている女子達の中には、事前に辞退する者達も多かった。

 私は、ユーフェリアの親友ということもあり、事前に辞退することも出来ず、王子と1曲踊る羽目になってしまったのだ。

 毎日、家で、ボッテチェリの絵を見てステップの練習をしていたこともあり、それを王子に褒められてしまったのだ。

 それを見ていたユーフェリアに、バルコニーへと連れ出され、突き飛ばされた。

 私と王子は、ただ会話をしていただけなのに、嫉妬深い彼女には、それが許せなかったらしい。

 大事に至らなかったから良かったものの、場合によっては、ユーフェリアは、第1王子の有力なお妃候補ではなくなっていたかも知れない。

 彼女には、それが分かっているのだろうか?

 こうして、ここで、いつまでも火花を散らしているわけにもいかず、私は、軽くため息をつくと、自分の席へと向かった。

 ユーフェリアは、軽く腕を組んだまま、動こうとせず、取り巻き達を困惑させていた。

 ーー彼女は、どうして、そこまで自分に自信がないのだろう?

 黙っていれば、絵に描いたように美しく、明るく爽やかで、王子の隣で笑っているのにふさわしいだろうに。

 彼女は、少しでも、誰かが王子を褒めたりすると、「好きにならないでね」と言う。

 どうして、そんなに自分に自信がないのか?自分に自信がない私に言えた義理じゃないけど、私には全く見当がつかなかった。

 恋する乙女はややこしい……というのとは、少し違う気がするし、彼女の嫉妬深さを他の恋する乙女全員にあてはめてしまうのも何か違う気がする。

 今のところ、王子に恋人がいるという噂も聞いたことがないし……。

 何がユーフェリアをあんなに不安にさせるのか?私には分からなかった。


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