第2話 彼女が私を突き飛ばした理由①

 この国の宰相の娘であり、第1王子の有力なお妃候補であるユーフェリアには、学園中が手を焼いていた。

 根は悪くないのだろうが、ギリシャ神話のヘラのように嫉妬深い彼女は、少しでも王子に近づく女子がいると、容赦なく牙を剥いた。

 端的に言って、王子が好き過ぎて、失敗する。嫉妬深く、自分の親友さえ疑う重い女……。

 あれ、今、私、彼女のことを「親友」って言ったっけ?

 自分でそう言っておいて笑えてきた。

 そう、私と彼女は、親友でも何でもない。

 ユーフェリアの父、ロベルト宰相は、国政には長けていたが、娘にはとことん甘く、彼女がこの国の支配者層である貴族の子息・息女が学ぶ学園に入る年頃になると、わざわざ我が伯爵家にもやって来て、

「ユーフェリアと仲良くしてやって欲しい」

 と頭を下げるほどだった。

 典型的なダメな父親である彼は、今回のことも、手紙で謝罪しつつも、それでも、これからも、私に、「ユーフェリアと仲良くしてやって欲しい」と譲らなかった。

 ーー私も、ユーフェリアの不安定な立場は理解しているつもりだ。

 この国の第1王子の有力なお妃候補である彼女は、親が決めた結婚相手との縁談がまとまるまでの間だけでも、猶予期間を与えられた私たち普通の貴族達と違って、軽い恋愛ごっこに興じる自由も与えられていなかった。

 この国にとって必要であれば、王子はいつでも婚約を破棄することが出来、他国から妃を迎えることが出来るにも関わらず。

 加えて言うなら、この大陸の王国は血縁を重視するので、王となる者は、ラインという大国、もしくは他国のライン系の家系から妃を娶ることも多かった。

 その点では、私は、彼女に同情するし、ロベルト宰相が娘に甘いのも分かるような気がした。彼女、ユーフェリアは、王子に対する執着が異様なことを除けば、陰で「悪役令嬢」と揶揄されるほど、嫌な人間ではなかったし。

 と、自分が突き飛ばされて、バルコニーから転落しそうになるまでは、私もそう思っていた。

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