悪役令嬢の親友だった話。

狩野すみか

第1話 目覚め

 ベッドの周りを親族や、使用人達に囲まれて、時折、すすり泣く声が聞こえる中、ふと目を開けた私に、周囲は一瞬時間を止めた。

 私も、ゆっくりと身動きしてみたものの、自分がどこにいるのか全く分からず、ぼーっとしていた。

 その沈黙を破ったのが、この国の宰相の娘であり、第1王子の有力なお妃候補でもあるユーフェリアだった。

 彼女は、

「ラティシア!」

 と私の名前を呼びながら、

「本当に良かった!」

 と言って、抱きついてきた。

 まだ目覚めたばかりの、しかも、自分が突き飛ばし、学園のバルコニーから危うく転落しそうになった人間に対してである。

 これには、さすがに医者からストップがかかった。

 ーーそう。私は、傍に侍女がいなければ、あのまま、バルコニーから転落して、死んでいたか、何らかの障がいをおっていたかも知れない。

「……メイは」

 メイローズはどうしたの?と問おうとして、声が掠れた。

 医者に抱きかかえられるようにして、動きを止められたユーフェリアは、目を丸くして、私を見ていた。

「お側におりますよ、ラティシア様」

「怪我はない?」

「はい。ラティシア様は?」

 まさか、私が、自分を無視して、侍女と会話を始めるとは思ってもみなかったのだろう。

 ユーフィリアの顔は、だんだん赤くなり、ブルネットの髪に隠れて見えなくなった。彼女は、肩に置かれた医者の手を乱暴に払いのけ、何も言わずに部屋を出て行ってしまった。

「申し訳ございません。私がお側におりながら、怖い思いをさせてしまって……」

 メイこと、私の乳母の娘であり、私付きの侍女でもある幼なじみは、頭を下げたまま、震えていた。

 一方、私は、といえば、身体に強い衝撃を受けたせいか、まだベッドから起き上がられずにいた。

 医者から、「今日は、このままお休みになられるように」と言われ、ベッドの天蓋を見つめているうちに、私は再び眠りに落ちた。

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