第26話:魔界へGO!

「エリカがやり過ぎたってどういう事だ眼鏡!!」

「ちょっ、レダ、眼鏡ってなによ急に!」


 思わず叫び声を上げたオレに、ツッコむ嫁さん(マドンナ)。


「わ、悪い、ちょっとこっちの話だっ」


 誤魔化しながらも、異形に向かって矢を放つ。


「こんな時にっ……てかこっちの話って何よ一体、誰と話ししてんのよっ!!」

「えっと……眼鏡だ眼鏡っ」

「眼鏡って??……まさか勇者隊の?」

「おうっ、何か知らんが話しかけてきやがった。コレにも関係あるらしい!」

「コレって……こいつらっ!?」

「レダっ……早目に頼む」


 動揺する嫁さん(マドンナ)に対し、イケメンは実に察しがいい。


「ああ、わかったっ、ちょい任せる!!で、どういう事だ眼鏡っ!!」


 ————言うに事欠いて眼鏡ですか。死にたいようですね、貴方。


 こっちは今まさに命懸かってんだ、用があるならさっさとしろ行き遅れ眼鏡がっ!


 ————い、いきっ!?なななななななんですってぇぇぇぇっっっっ


 気にしてたのかよ……


 ————不敬にも程がありますっ!王女殿下、どういたしましょうこの男っ。


 聞こえてんのかよ……てか王女様にそれ聞くの?

 もしかして、お前さんも同じ事思ってたんじゃねえのか、王女様に……。


 ————い、いえ滅相もありません王女殿下、わわ私はそのっ……。


 いい加減にしてくれよ。その婚期をどうにかしようと頑張ってるんじゃねえのか?

 そもそも3人そろってすげえ美人なんだから、魔王さえ倒せばどうにでもなるだろうに……。


 ————な、なにをいきなり言いますかこのBランクがっ、大体貴方っ……。


 テンパるなよ可愛いじゃねえか眼鏡のくせに。お陰でめっちゃ冷静になったよ。


 ————こ、こほん。よろしい、今から私の言うとおりにしてください。


 早いとこ頼むわ。


  ————『物理威力向上』『魔法威力向上』『障壁展開』『身体能力向上』


 途端、オレの首に掛けられた首飾りが光り、暁メンバー全員に眼鏡メイドの支援魔法が飛んだ。


「うぉっ、眩しっ!!!てめえ、やるなら一言言えよびっくりするだろうが」


 ————速やかに敵を排除ののち、前方へ走りなさい。

     最短ルートは掌握済みですので、こちらでナビゲートします。

     大至急。


「ちっ、無視かよ。しょうがねえ、みんなっ、敵倒して全速力で移動だ!

眼鏡が案内してくれるとさっ」

「なんだか分からないけど、心強い提案だね。

 僕の代わりにありがとうと言ってくれないか、レダ」

「やなこったっ、いくぜオラっ」


 オレの叫びに軽く答えるイケメン。

 オレはそれを拒否しつつ矢を放った。

 身体能力向上によって限界に引き絞られた弓から放たれた矢は、物理威力向上によって異形の上半身を軽々吹き飛ばした。

 ドワーフ女の大盾は攻撃を受けても微動だにせず、イケメンの剣は盾に受け止められた異形を頭から両断した。

 嫁さん(マドンナ)のファイアボールは通常の数倍の速度と大きさで、数体の異形を瞬時に消し炭に変えた。

 ご令嬢は魔獣の背後から急所を一突き、絶命させると即座に次の異形へと跳んだ。

 生臭坊主はバフ役を奪われてしまい、特にやることがないのか手持無沙汰だ。


 「すごいですな、ジョゼフィーノさんは。一度是非ご教授願いたいものです」


 何をご教授願いたいかは、聞かないことにしておこうか。

 ともかく、まさにあっという間に魔獣の群れは全滅した。

 すげえな眼鏡メイドの支援魔術、自分の身体が自分のじゃねえみたいだ。


 ————敵の気配消滅確認。全速で通路を進みなさい。


 「休むなってよっ、マジ鬼教官だわ眼鏡。」


 オレたちは、異形を倒し続け、そして走り続けた


 ————『完全治癒』『精神安定』『スタミナ向上』


 ご丁寧なことで。

 掠り傷ですら治り、敵の風貌に恐怖することもなく、休憩すらなしときた。

 予告せず首飾りが光るのだけはいただけないがな!

 進むにつれ、大型化、狂暴化する異形もなんとか倒し、最深部とやらに向かう。


 ————次の角を右。直進すれば、最後です。


 掛けられたバフが計ったように効果切れになったとき、オレたちはダンジョン最深部に到着した。

 オレたちの正面の壁にうねる蔦の中に真っ赤な、巨大な目玉のようなものがある。

 それは、てらてらぬらぬらと淡い光を放っていた。

 オレたちは、その前で膝をついた。

 肩で息をするのも辛いわ。


 ————お疲れさまでした皆さん。


「……来てやったぞ眼鏡。こっからどうすりゃいいんだ。てか、これは何だ?」

 

 疲れすぎていたせいか、脳内会話をしていたことも忘れて会話する。


 ————ダンジョンコアですね。聞いたことぐらいはあるでしょう。

     ただし、皆さんのいるソレは魔王化したダンジョンとなりますので、その

     ダンジョンコアはこちら——魔界へと繋がっています。


「魔界ってオイ、まさか……」


 ————レダさんは、それを通じてこちらへ。

     残った暁の皆さんは、それを倒していただきます。


「おいおい、ダンジョンコアってやつは壊すとダンジョンが死ぬとか聞いたぜ」


 ————安心してください。

     本来のコアが魔王種の魔力によって汚染されている状態です。

     破壊することによって、通常のコアにもどるかと、思います。


「思いますって……自信ねえのかよ」


 ————残念ながら、確証はありません。


「それでも、やれってか」


 ————現在、魔界そのものが大変危険な状態にあり、それに影響されているコア

     もまた、いつ暴走するか予測不可能です。


「魔界が危険ってのは、まさかエリカが原因か」


 ————はい。ですのでレダさんは、それを止めるために速やかにこちら側へ来る 

     ことをお勧めします。

     こちらの危機が去れば、ダンジョンコアも安定すると思われますので。


「それまでこっちは耐えろってことか」


 ————有体に言って、そうなるかと


「僕らは、これを相手にすれば良いのかな?ジョゼフィーノさん」


 イケメンが、さらりと答えた。

 眼鏡メイドの言葉、聞こえてねえ筈なのに……すげえなイケメン。


「だそうだ、ウィル。で、オレはあっち行かなきゃならんみたいだが」

「だったら、とっとと行きなさいよレダ」


 申し訳に答えたオレに、面倒だとばかりに手を振る嫁さん(マドンナ)。


「勇者様が待ってるんでしょ」

「拙僧が代わっても構いませんぞ?」

「よくわかりませんが、勇者様をよろしくお願いしますわ」


 仲間が、口々に言った。

 視線があったかいわー。


「皆、任せてもいいのか?」

「大丈夫さ、ついこの間までレダ抜きだったんだよ僕らは」


 イケメン、今それ言うか?

 それもすっごい爽やかな笑顔で!

 ……泣くぞ。

 いろんな意味で。


「……わかった。ちょっと勇者様救ってくるわ」


 オレは振るえる膝に手を添え、立ちあがってダンジョンコアの方へ歩いた。

 疲れすぎていて、ダンジョンコアに向かって倒れこみそうになる。


 ————ああ、忘れてましたわ。

     首飾りは、どなたかに必ず渡しておいてください。

     支援が届かなくなりますので。


 ちょっと待て。そんな大事なこと言い忘れんな眼鏡。

 慌てて、踏ん張って耐えたよオレっ。

 このままあっち行ってたらヤバいじゃん何してんのクソ眼鏡!

 オレはイケメンに首飾りを手渡した。


「勇者と魔界がどうにかなるまで粘ってくれ」

「君の大役と比べたら、遊びみたいなものだよ」

「かもな」


 そう言って、オレは目玉に手を伸ばし。

 吸い込まれるような不快な感覚に飲み込まれ、意識を失った。

 数瞬の闇。

 そして覚醒。


「……なんだこりゃ?」


 気が付くと、オレは縄で縛り上げられていた。



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