第11話:予期せぬ再会

「気を失ったのはホントなんだからもうちょっと労わってよ……ぷんぷん」

「ぷんぷんて……気が付いた時とっとと起きとけよ」


 膨らませた頬をさすりながら口を尖らせささやかな抗議の目をするエリカ。

 見た目通りの歳なら、まあ許せるのだが……だがっ。


「25歳児だと思うと萌えねえなあ、それ」

「なっなによ……心はいつでも乙女なのよ、はっ倒すわよ」

「乙女はそう簡単にははっ倒さねえよん……それでだ」

「な、なんのことかしら?」

 

 明らかに動揺を隠せないエリカ。


「何の、じゃねえよ25歳乙女痴女。魔力が何とか言ってたろうがよ」

「そんなの知らっ……ないこともしれなくもなくない?……みたいな?」

「覚えてんじゃねえか、言っとけ言っとけ」

「出来れば、その……言いたくないというか聞かない方がいいというか」

「今更だよ……今なら勇者隊のスリーサイズだって聞いてやれるわ」

「……それは嫌よ絶対。比べられたく……ないもの」


 露骨に顔を歪めるエリカ

 ……そんなかよ。そんなになのかよ期待しちまうじゃねえか。


「うむ。ならばそれは次の楽しみに」

「しないでちょうだい。……いいのね、話しても?」

「ああ、どんと来いだ」

「ストームベアの魔力、だったわね。あれは——」


 村長以下村人ズを引きつれて現場と獲物を確認させた。

 惨状に驚きつつも、感謝されまくると正直居心地は悪い。

 この大惨事の立役者は体調不良で宿屋待機。

 という事にして現在もりもり食事中。

 宿で供された食事では足らないだろうと、台所拝借しオレも参戦。

 大盛山盛特盛ランチを堪能中、のハズ。


「本当に有難うございました。依頼料の方は……必ず」

「ああ、忘れんなよ。ギルドも悪いようにはしねえだろう」


 念だけは押しとく。

 それで、最終判断をどうするかは知ったことじゃない。


「で、早馬は戻ったか?」

「いえ、まだ……」  


 途中で引き返すだけの事情があれば、今日明日か。

 問題が起きてなければ、アストンには到着してる頃だ。

 余計な連中と鉢合わせがなかったのは、むしろ幸いだ。

 オレは胸を撫でおろした。

 ストームベアの死体処理は村人ズに押し付け、村へと。


 そして話は冒頭に戻る。

 空になった大量の器を前に腹をさすりながらご満悦のエリカ嬢。


「——もしかし、魔王種の魔力かもしれないの」

「まおうしゅ……魔、王、しゅ……魔王種ぅっ!?」


 言葉の意味は分からんが、何を言いたいのかは、わかった。

 なにそれ……どういうこと?

 すんげえ聞きたいような聞きたくなような。


「魔力にはね、色…というか肌ざわりというか味というかそんなものがあるのよ」

「……」


 うわー、なんかまた聞いたことない話しだー、勉強になるなぁ……じゃねえわっ。

 聞きたくねえわそんな世界の真理っぽい方面の話。

 なんだよ勇者様魔力鑑定士かよ、魔力テイスティング1級とかかよっ。


「ストーム……ベアだけあれ?の上のテンペストベアですら固有の魔力を持ってる。

それこそ、ほぼすべての動物、植物、鉱石、そして魔獣も、ね」

「ほぼ……?」

「そう、ほぼ。その例外が……」

「まさかさっき言った、魔王種?」

「そう。他にないとは言い切れないけどね。

あたしだって何でも知ってるわけじゃないし。

でね、その魔王種ってのは、言葉通り魔王——つまりは魔界の王に連なる種族」

「魔王。それに連なる連中かー」


 もう想像もつかねえわ。

 魔王討伐は勇者譚の定番、人気エピソードでお約束だ。

 それは知ってる誰でも知ってる。

 けど、知ってるのと目の前で語られるのとじゃ大違いだ。

 それも、幼い見た目の出会ったばかりの、おそらくマジモン勇者様から。

 聞きたくなかったなー、聞いちゃったなー。


「でね、その魔王種ってやつらは、全にして一、一にして全」

「……なんだそりゃ?」

「あたしだってよく分からないわよ。けどね、ひとつだけ分かってる。

魔王種の魔力はね、みんな同じなのよ。」

「ん?別におかしくなくねえか。

テンペストベアはテンペストベアの魔力ってことだろ、だったら——」

「そうじゃない。あたしとレダの魔力は違う。勇者だからって訳じゃなくてね。

種族内でも、魔力は全部違うのよ、微妙に、だけどはっきりとね」

「じゃあお前の言う魔王種、とやらは」

「そう。全ての魔王種は魔王そのもの。あくまで可能性だけどね。

歴代勇者とその組織、誰もそれを証明したひとはいない、らしいの」

「分からなくても魔王は討伐可能、か」

「そゆこと。で、話し戻すけど、なんとかベア」

「ストームベアな。覚えろよ。で、どういうことだ」


 エリカは大きく深呼吸。


「あたしはね、倒した相手の魔力を吸収して回復できるの」

「すげえな勇者」


 生きている相手の魔力を奪う術は存在する。

 それを用いる魔獣も魔植物もいる。

 しかし、倒した相手の魔力、というのは聞いたことない」


「一応聞くが、生きてる相手の魔力は?」

「もちろん奪えるわよ。面倒だからしないだけ」


 ぱねー、てかこえー。

 オレは目の前の見た目少女をなるべく怒らせないよう誓った。

 なるべくだけどな!

 だって、怒ると可愛いんだものこの子。


「ああ、また脱線しちゃったわね。レダと話すの楽しいからいけないのよ」

「そりゃよかった、のか?」

「ええ、でよ。件のストームなんとかから吸い取った魔力がね」

「いやいやベア無くすなよ。そこ大事なとこだよ忘れんなよ」

「うっさいわね。でベアの魔力が似てたの…………魔王種に」

「とうとうただのベア扱いか。まあいい、続けろや」

「そうね、はっきりしたことはまだ言えないけど。

それは、魔王種の魔力を得てそれになったんじゃないかってこと」

「ベアも抜きか。……なんでそう思った?」


 オレも思うところはあるが、専門家の意見を素直に聞こうか。

 エリカは促されて頷いた。


「それクラスの魔獣がこんな辺境では出ない、だったわよね」

「そうだな。オレも初めてだ」

「出た時期は?」


 エリカは少し悲しそうな顔をした。

 ああ、繋がった。

 ぼんやりとしてた糸が、はっきりと見えてきた。


「あたしが落ちてきて、それが現れた」

「そりゃ偶然——」

「だと嬉しいけどね。ところでレダ」

「なんだよ……」

「あたしが落ちてきた時さ、他になんか見えなかった?」

「なんかって……大爆発だったんだぜ、目の前真っ白だよ」

「そっかー、じゃあ逆に何か落ちてきてても見えなかったかもねー」

「けどそりゃ——」


 お前とは関係ないかもしれないじゃねえか。

 そう言いたかった。

 けど、言うことはできなかった。


 部屋の扉が、ばばーんっと開け放たれた。


「レダっ!無事だったか!!」


 ……うわーうわーうわー。

 来やがったよ厄介が。

 颯爽と現れましたは約10日ぶり。

 キラッキラに輝くは、その名もイケメンスマイル(オレ命名)。

 その笑顔の持ち主は、懐かしき我らが元PT暁がリーダー。


 イケメンことウィルソンが、そこに立っていた。


「ウィル、お前なんで……」


 何でここに来た?と口に出そうとして戸惑った。

 こいつが来る可能性は十分あった。

 覚悟はしてた……が、覚悟が足らなかった。

 早馬が戻らねえから、油断してたわ正直なとこな!!


「怪我はないか?ちゃんと寝てるか?飯は……君の作る飯は美味かったな。

懐かしいよまた食べれる日を楽しみにしているよ」

「母ちゃんかよ……」


 あまりにウザくも懐かしい語り口にうんざりするが、少し嬉しい。

 忘れられたわけじゃねえんだよな。

 まだ10日ちょい、これで忘れてたら泣くわ!


「それはそうとレダ、倒したんだってな、ストームベアっ。

それも弟子と2人で。いつの間に弟子取ったんだよすごいじゃないか!

君が去ってしまって心配してたが、本当に良かったよ」

「お、おう……」


 弟子じゃねえけどな!勇者だけどな!

 オレが眩しすぎる笑顔に視線を逸らすと、イケメンもそちらに視線を動かした。

 そして、固まった。

 その視線の先にはエリカがいた。

 仮面をつけてない勇者様が。

 ……ヤベえ。


「レダっ……君ってやつは……」

「おいウィル、これはだなぁ——」


どう言い訳したもんかと逡巡。


「いつの間にこんな美しい方とお付き合いしていたんだいっ!?

酷いじゃないか、オレたちは親友だろ、教えてくれても良かったじゃないか。

いやまさか既にご結婚の約束を?

ああ、それで故郷に顔出すと言って街を出たのかなるほどなあ」

「いやちょっと待てイケメ——じゃなくてウィルっ、勘違いすんな!」

「ん?もしかして結婚の申し込みはサプライズ予定だったとか?

それはすまない、今更忘れてくれともも言えないが誠心誠意祝福をさせてもらうよ」


 落ち着けよイケメンひとりで暴走すんなっ。

 エリカもなんかてれてれしながらもじもじしてるよ可愛いじゃねえかけど止めろよ否定しとけよ。

 オレが、この状況をどうしてくれようかと悩んだ隙に、イケメンは寝台に座るエリカの前に片膝をついた。

 

「はじめまして美しいお嬢さん。僕はウィルソン、気軽にウィルと呼んでほしい。」

「えっと…あの、エリ……じゃなくてセリカ、です」


 よしよし、設定忘れてねえなあとで褒めてやる、じゃねえよ!

 挨拶交わしてんじゃねえぇぇぇぇぇ。


「レダから聞いてるかもしれないけど、レダは僕らのPTメンバーで頼れる仲間さ。

今は故あって離れてはいるが、心はいつも共ににあると信じているよ。

レダと僕……あと僕の奥さんは同郷出身の幼馴染でね。

彼がいたからこそ、僕たちはここまでやって来れたといっても過言じゃない。

だから貴女も——セリカさんと呼ばせてもらってもいいか?いいよね?

安心してほしい。彼は——レダはセリカさん——貴女を必ず幸せにする」

「は……はい」


 はいじゃねえよ何やってんだよこの茶番っ!?

 父親との初対面じゃねえかイケメンオレの父ちゃんじゃねえだろ何言ってんだよ!

 エリカもイケメンスマイルに中てられて乗っかってんじゃねえぞっ。


「おいエリ——じゃなくてセリカちょっとこっち——」


 打合せだこのやろうとばかりに引きはがそうとしたところで。


「あ、いたいたっ!レダあんたなにやってんのよ!

弟子がいるからってストームベア討伐なんて無茶しちゃダメでしょ!

大丈夫?怪我してない?ちゃんと風呂入ってる?

こんな時あたしたち頼らないでどうすんのよ仲間でしょぉっ!?

……てかなにその美人っ!もしかしてあんた——」


 ……ああ、厄介が増えやがった。

 誰か助けてプリーズ神様勇者様。

 ただし勇者様は、絶賛赤面もじもじ中で役に立ちそうにないこと甚だしい。


 そこに現れたのは、オレの幼馴染にて故郷のマドンナ、イケメン嫁さんにてイケメン娘ちゃんのご母堂、冒険者PT暁の頼れる肝っ玉母ちゃんであるリーシャ。

 そしてその背後には領主ご令嬢含む現暁メンバーが揃っていた。



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