第5話:全裸な彼女

「ねえレダ。これもうちょっと何とかならないの?嫌だわ」


 レダって誰よ!?男、男なのね!!酷いわこの浮気者がっっ!!

 こんばんわどーもレダです。

 レダこと主人公のオレです、5話目にして名前出ましたね。

 ……恥ずかしっ(ぽ)

 実際は狩猟小屋でエリカが目覚めて早々に名乗りあっていたわけで。

 とはいえ初対面男子に対しいきなり名前呼びはハードルが高いのも納得。

 体は子供、心は乙女の全裸女子エリカ嬢。


 オレが生死の境見学ツアーから戻ってきてから数日を要したものの、ようやく互いを名前で呼び合う間柄になったのさ。

 いやー天使っていうの?アレ、頭に輪っか載っけてさ、ぴよぴよ浮いてんの沢山。

 すっげえ神殿のようなところに到着する寸前で目が覚めた。

 あぶねえあぶねえ、まったく玉ヒュンだよ。


 それから死の淵から堂々ご帰還凱旋あそばされたオレに対し、飯寄越せとの催促。

 いやいや労われよ!痛めつけるだけかよ!

 とはいえ、頼られるのも悪くないとばかりに張りきった。

 しかしまあ、よく食うわ食うわどこの大食いギャルだよなんとかチャンピオンかよってぐらいの喰いっぷり。

 豚になるぞと指摘したら、三日食べてないとしれっと言いやがってさ。

 なにそれ三日!?

 オレ三日寝てたの?マジかー。

 てかオレが寝てる間に自分で食料くらい何とかしろよ勇者(仮)。

 仮ってついてるくらいだからひと狩りでもふた狩りでも行って来いよ!

 第一死なない程度が三日のタイムリープかよ、もうちょっと弁えろよと言いたい。

 言ったらもう三日くらいすっ飛ばされそうなので言わないけどさ!

 ちらっと睨んでおくだけさ。

 怖いし。

 気付かれて勇者スマイル返されたよ、やったね。


 で、冒頭の台詞にはいつになったら繋がるんだ?と言いたいそこのアナタ。

 まあまあ待ちたまえ、慌てる物乞いはなんとやらって諺もあるだろう。


 エリカの腹が膨れたところで次なる議題は無論例のアレ。

 人間にとって超重要な三要素、衣・食・住。

 食はオッケー、まさかもう腹減ったとか言わないよね。

 住は狭いながらも楽しい猟師小屋。

 ちょっと扉が無くて秋風吹きすさぶが、これはおいおい要改善。

 で、だ。

 残るは衣!衣料の衣!衣服のい!いろはのい!ってぐらいの超重要案件で難問。

 だってほれ、元全裸少女の現全裸女子ですよ?

 一応実年齢(自己申告)がアレなので少女呼びは女子に訂正。

 女子って便利な言葉だよねー。

 その全裸女子エリカ。

 オレが天使に連れまわされている間、マントも羽織らず全裸であちこちうろうろ。

 世が世なら事案ですよ痴女案件ですよ。

 変なオッサンに出会わなくてほんと良かったわ。

 こんな森じゃあ出会うのは熊さんぐらいだしな。

 赤い前掛けでもしてたら相撲取ってくれたかもしれんな。


 オレが目覚めたらやっぱり全裸だったもんで、真っ先に指摘したさ当然さ。

 そしたらマントは臭いから嫌とか言いやがった。

 三日前にも聞いたよそれ。

 だったら川に行ってでも洗ってくりゃいいじゃん3日あったしさ!

 洗濯とか面倒くさいと宣った。

 女子力ひくー。


 仕方ないからオレが洗って乾かした。

 なんとなく納得いかないが、そもそもオレのマントだしなと諦めた。

 その間もエリカは全裸で大股闊歩、視界に入るだけで目の毒だ。

 

 ……これで発育不良女子じゃなかったら危なかったぜ。


 つくづくそっちの趣味がなくて良かったと胸をなでおろした。


 マントが乾いたところで無理やりエリカに羽織らせたはいいが、別問題浮上。

 エリカがやけにべたべたとオレに纏わりついてきた。

 腕に抱きついたり腰に抱きついたり背中に飛びついたり。

 ここで何故か知らないけどとか言っちゃうのは鈍感難聴系主人公。

 空気の読める主人公的オレは分かってる。

 エリカの境遇とその力。

 親元離れて10年の勇者生活略して勇活。

 さぞ人肌が恋しかったであろうことは言うまでもあるまい。

 

 親と離れるにはまだ早く。

 恋をするには憚られ。

 信者はあれど友はなかなか難しく。

 そういった、互いに触れ合える人間関係構築が困難な以上に大問題があった。

 エリカの持つ勇者の力すなわち勇者パワー。

 加減をちょっと忘れただけで一撃必殺の優れモノ。

 

 おかげでオレのあばらが何本かイったね。

 痛かったよ。

 秘蔵の回復スクロールがこんなことで役に立つとは思わなかったよ。

 エリカの勇者パワーで何とかならなかったのかって?

 それはもうちょっと魔力回復しないと駄目らしい。

 それまで我慢しろと言われた。

 ならばお触り我慢しろとツッコんだら、悲しそうな顔しやがった。

 仕方ないから我慢するけど、そっちも加減しろってことで折衷案が採用となった。

 

 問題解決と思いきや、もう一つ浮上したのがさっきの別問題。

 エリカが密着してくるとさ、触れるのよその柔肌。

 胸とか腹とかいろいろとさ!

 マント越しにとかいう配慮は一切無視が全裸女子の心意気。

 気にするのが面倒だと言い放ちやがった。

 そっちは良くてもこっちは良くないわ!心臓に!

 ドキドキだよドキドキ。

 見た目はアレでも女子は女子。

 それも身体成長が極めて遅れてるだけの精神年齢25歳。

 肉体年齢10年後を想像しちゃったりするわけよ年頃男子としては。

 

 勢い余って押し倒さなかったオレを褒めてあげたい。

 それやったら死ぬけどな、確実に。

 勢い余って押し倒されたことは何度かあった。

 痛かったわ!

 

 さて、オレの貞操がぎりぎり守られたところでエリカの衣服問題。

 生憎着替えの類は持ち合わせなし。

 だが、必要は発明の母で失敗は成功の元。

 なければ作れば良いと一念発起。


 食料調達のひと狩りついでに材料調達することにした。

 簡単なところで葉っぱと木の皮と蔓草のお手軽装備。

 ダサいと嫌がられたけど無理やり着けさせた。

 けど一瞬で壊れたね。

 勇者パワーについてこられなかったみたい。

 仕方ないので動物の皮。

 面倒だけど中身はスタッフが美味しく頂くことも可能な優れもの。

 手慣れた手つきで皮を剥ぐ。

 余分な脂と肉はナイフでこそぎ落とし、更に焚火で炙り落とす。

 さすがに全裸女子採寸は憚られるので大きさ適当調節可能に仕上げた。

 エリカに遠慮するなと無い胸張られたが、そこは丁寧にご遠慮申し上げ。

 これで完成とばかりに嬉々としてエリカに手渡した。

 

「……臭いわ」


 渾身の一作に強烈な一撃ダメ出し。

 洗って干して炙ってを繰り返し、なんとか及第点をいただいた。

 それでも着用時の感触が気に入らないと、貫頭衣スタイルは拒否。

 結局胸と腰、それぞれを隠す程度の野生児ファッションに落ち着いた。


 ここでようやく冒頭へと戻る。

 いやー長かったね、お付き合いくださって誠に恐悦至極。

 もうすっかり忘れたわ、とお嘆きのアナタのために再掲。


「ねえレダ。これもうちょっと何とかならないの?嫌だわ」

「うるせえ、ここでそれ以上のもんは無理だ。街行くしかねえ」

「じゃあ早く街行きましょうよ」

「服がねえから街に行けねえって言っただろうが!」

「気にしないって言ったでしょ」

「気にしろよ!てかオレが気にするわ!」

「わがままねえ。子供じゃあるまいし」

「そっくり一字一句そのまま返すわその言葉!鏡に向かって百回繰り返してこい!」

「鏡は嫌だわ、嫌いなのこの顔」

「そうかい良かったな、オレはわりと好きだぞ可愛いじゃねえか」

「なっ、何言ってるのよっ」


 エリカが朱に染まった顔を逸らして終了。

 相変わらずチョロいな、慣れろよ。


 そういうわけで、服を得るために街に行きたいが街に行くための服がないという、なかなかジレンマな状況を打開するために、全力で挑んだオレに対するこの仕打ち。

 なんとかブラ&パンツ&マントのアメコミヒロインスタイルで我慢してもらおう。

 一応足元も準備したが、エリカの勇者パワーウォークに耐えられるとも思えないので、そんときゃ裸足で諦めてもらおう。

 もっとも、勇者パワーを纏った足裏は過酷な岩山踏破でも傷つかないらしい。

 意識しさえすれば土埃一つ付かないとはエリカ談。

 ……勇者パワーすげー。

 けどそのせいで化粧もできないのだとか。

 化粧なんぞしなくても絶世の美女に見えるから必要ないらしいけど。

 いや化粧しなくても十分可愛いぞと言ったら顔を赤らめた。

 いやあ、肉体年齢10年後が楽しみだなー。


 そんな未来が、彼女に早く訪れればいいのにと思わずにはいられない。


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