第39話 食欲の秋と誘われる匂い
陽が落ちたばかりの夜空
華やかな駅前の繁華街
香ばしい炭火焼肉の香りに群がるのは
疲れを知らない高校生の集団
夜の街に心なしか気分も上がる
ハナ「よし。全員集まったかな?」
パク「あ〜……あとはリコちゃんだけだと思います。」
ヒデ「あれ?軽音部?」
ハナ「ん?スキー部もここで打ち上げ?」
ヒデ「打ち上げと言ったらちっぷ亭か、ここでしょう!」
ハナ「もしかして、スキー部か!1番奥の個室予約してたの!」
ヒデ「1ヶ月前から抜かりなく!うちの分も出してくれるなら譲りますけどね?」
ハナ「なに言ってるんだか……。」
パク「そろそろ予約の時間なんで店入りましょうか?」
ハナ「そうだな……。」
騒がしく始まる焼肉食べ放題の打ち上げ。
遅れて到着したリコはパクに遅れて会費を払う。
パク「ん?リコちゃん大丈夫?」
いつもなら1番張り切って肉を食べるリコが遅刻をし、あまり乗り気でないことにパクは気づいてしまう。
リコ「え?何がですか?」
パク「いつも焼肉なら大喜びなのに、体調悪い?」
リコ「あ……実はちょっと……胃がもたれちゃってるのか……なんかお腹の調子が悪くて。あ、でも大丈夫です、お肉、食べれますから!」
ヘラヘラと愛想笑いを浮かべるリコにパクはハッとする。
マリやユリのいるテーブルを見つけ楽しそうに食事を始めるリコに、パクは自分が事情を聞くべきかそっとしておくべきか、悩みながら肉を焼き始める。
亭主が猪や鹿を狩ることが趣味なため、良心的な値段でさまざまな種類の肉が食べられることで有名だった。
学生はライス、野菜、スープ無料食べ放題。
しかも学生割引で肉も提供してくれるため、学生に大人気の焼肉屋だった。
サクラ「さぁ!みんな、文化祭お疲れ様でした!今日の軽音部チケット売上でみんなの焼肉代ぐらい全然平気だから、しっかりたっぷり食べなさ〜い!!部長もお疲れ様!乾杯よろしく!」
ハナ「みんな、お疲れ様!乾杯〜!!」
軽音部「乾杯〜!」
あちこちで肉や野菜が焼かれ、楽しそうな笑い声が響く。
そんな中、色が進まないリコは換気扇から流れ込む外の匂いに気付く。
深い深い森の香り。
もう一度嗅ぎたい思って忘れられなかったあの香り。
ユリ「リコちゃん?」
リコは無言で席を立ちフラフラと個室を出てゆく。
マリ「トイレかな?」
ユリ「そうだね。」
リコは廊下でトイレに立っていたヨシキとすれ違う。
ヨシキ「お疲れっす!」
リコ「……。」
ヨシキ「あ……れ?」
店を出たリコは呆然と辺りを見回す。
あの、謎の男がアンちゃんを迎えに来たことだけはわかった。後をついてったところで何かしたいわけでもない。
好奇心を掻き立てられる、不思議な香り。
ただ、懐かしいような、何の香りかもわからない森のような香りはリコの鼻でもどこから来たのか捜索するのが難しいほどに薄まってしまっていた。
パク「リコちゃん?!大丈夫?」
リコ「……。」
パク「あの……実は……リコちゃんの……」
ヒデ「ちょーっと待ったぁ!!」
パク「ヒデ先輩!?」
ヒデ「リコちゃん……俺……あんな、手紙もらっちゃったけど……ごめんな……。」
パク「えっ?!じゃあリコちゃんの相手って……!!」
ヒデ「パク……すまん……。」
パク「いくらなんでもそれは酷すぎます!僕だってミニョンは大事にした上で女の子とデートしたりしますけど、絶対にキスしたりしませんよ?!そこは守っての完全潔癖一彼多彼女制です!」
ヒデ「お前……なに言ってるんだ……?」
パク「女性を傷つけるなんて最低です!」
ヒデ「しかし……勘違いさせてしまうことはこれから先もきっとあるだろ……?俺が悪いんだ……ごめんな……リコちゃん……。」
パクとヒデがやりとりする中、リコは我を取り戻す。
リコ「あれ?なんか……ぼーっとしちゃってた……っへっくしゅ。寒っ!!」
パク「リコちゃん……大丈夫?」
ヒデ「思い詰めないでくれ、俺はフウカちゃんを大事にしたいんだ……だから……ごめんな。」
リコ「へ?何のことですか?」
パク「食欲もずっとなかったみたいだし……体調あまり良くないんだろ?」
リコ「え?……あ、本当に今日は、お昼にいっぱい食べすぎちゃって……。まだ全然お腹空いてなくて。それより寒いんで戻りません?」
パク「……。」
ヒデ「リコちゃん……。」
リコ「ヒデ先輩がフウカ先輩大好きなのはわかってますよ?何の事をあやまってるかわからないですけど、私には何も問題はないので、どうぞ遠慮なくラブラブしてください?」
ヒデ「……ごめんな。」
パクとヒデは、リコが身をひく形で妊娠問題を解決したと勘違いをしたまま幕を終える。
リコの強がりだと勘違いしたパクは、それを気づかないふりをし
リコの勘違いをなんとか回避したと安堵したヒデは今後は女性への言動に気をつけようと彼女第一主義を貫く事を決意する。
ユリ「あ、おかえりー!トイレ混んでた?」
リコ「え?あ、どうだろ?」
マリ「ほらお肉いっぱい焼いちゃったよ〜!今日はネギもかけ放題だって!」
リコ「タン塩!ネギモリモリにして食べよー!」
リコは2人の心配をよそに、焼き肉を食べ始め
あ、意外に食べれそうだな、と、
ぺろりと一人前たいらげるのであった。
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