第38話 食欲の秋とすれ違う2人の心
準備にたっぷり時間をかけた文化祭
待ちに待った本番の時間は
ほんの一瞬で過ぎてゆく
楽しかったのなら
尚一層
たくさんの思い出を残して
文化祭が終わりサチコを校門まで見送るハナ。
サチコ「ありがとう、すっごく楽しかったよ!」
ハナ「良かったです。」
2人の間に無言の時間が流れる。
名残惜しいような、気恥ずかしいような。
人通りが途切れた隙を見て、サチコがハナの腕の中に飛び込む。
ハナ「!!」
サチコ「今はこれぐらいしかお礼できないけど、また、連絡するね?本当にありがと、楽しかったよ?」
サチコはハナの腕の中から逃げるように走り去っていった。
振り返ることなく。
思考が停止したハナはその場に立ちつくす。
胸の中に収まったサチコは小さくてか細くて。
思いのまま抱きしめてしまえば、
ホロホロと崩れてしまいそうだった。
あれ?
今はまだ……とか言っていたような?
期待していいの?
でも、期待したらキット裏切るんだ……女ってきっとそうだ……。
もうやだ、わかんない……。
音楽室から一部始終を隠れ見ていたマリは、しばらくたってもぼーっと突っ立っているハナに痺れを切らし、音楽室からハナに大声で呼びかける。
マリ「部長ーー!!片付けーー!!手伝ってくださーーーい!!」
ハナ「!!」
マリの呼びかけに気づいたハナは、目撃されていたのではないかと心配になりながら音楽室に戻っていく。
ハナ「あれ?他のみんなは?」
マリ「体育館に残った機材とか、紙吹雪とかの片付けに行ってます。私は部長と音楽室の片付けって、決めたの部長でしたよね?」
ハナ「そうだった、ごめんごめん。」
マリ「あとは、私じゃ運べない重たい物だけなので……お願いしても良いですか?」
ハナ「もちろん、先にやらせちゃって悪かったね。あとは俺やるから、ゆっくりしててよ。」
マリは黒板に描かれたタイムテーブルを消してゆく。
ハナ「あとはあの緑のベースアンプだけだな。…ん?これは…手紙?」
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部長のことが好きです。
お付き合いしているのは知っているのですが…
………………………… Mより
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ハナ「?!」
ハナの手が止まっていることに気づいたマリは、キビキビ動くよう、たしなめようとする。
マリ「部長……?リコちゃんとハナ先輩がおなじステージだから……リコちゃんに頼んだのに、なかなか言ってくれてないみたいで……。
私、もう、どうしても気持ちを抑えきれないです!この際、ハッキリ言ってもいいですか?」
ハナはサチコの余韻と衝撃の手紙による告白に動揺し、状況を正確に理解していなかった。
ハナ「えっ……今その手紙を読んでるよ?……えっと……ここじゃなんだからさ、今日の打ち上げの後、こっそり2人で抜け出して、いつもの『ちっぷ亭』でまずはゆっくり話さないか?ちょっと心の準備というか、整理が追いついてなくて……!」
ハナは突然のモテ期襲来のような感覚になっていた。
サチコからは、ギリギリの待てを喰らっている状態だ。
そんな中、可愛い後輩が勇気を振り絞って自分に告白?!
いやいや、このあと文化祭閉会式のPAあるし、打ち上げ幹事パクだけに任せるの可哀想だし、そもそもサチコが俺にはいるし……。
今ちょっと整理してみるか?
俺はサチコが好きだ。
めちゃくちゃ好きだ……と、思っていたが、なんだか彼女は訳アリだ。
そして振り回されてしまいそうな感じがもう既にある。
男の扱いも慣れているし、弄ばれてる感が半端ない。
まぁ、正直、そんなサチコもわるくはないが、果たして自分の手に追える女なのか?
そんな時に現れた可愛い後輩よ。
俺全然気づいてなかったけどそんなに我慢できないぐらい俺の事、好きなの?!
何この感覚!!え!!マリちゃんって、ラブレターとか書いてくれちゃうの?!
マリ「部長?私もう我慢できないんです!」
何そのセリフ!どこで覚えてきたのっ?!
我慢できないって!どうしよう!
ハナ「ちょっと俺も色々あって……本当に……整理する時間が欲しいんだ。あ、ほら、マスターが新作の素麺ができたってさっき連絡があって!もちろん奢るからさ、な??ほら、今からすぐ閉会式だし、ちゃんと打ち上げの後で時間作って話聞くから!」
マリ「……絶対ですよ?」
体育館での文化祭閉会式が終わり、生徒たちは各々帰宅し打ち上げ会場に向かう。
ちっぷ亭はさすがに目の前すぎて、大勢で集まるには近隣に迷惑がかかると学校からちっぷ亭での打ち上げ利用は禁止されていた。
そのため、学校から程近く、流羽夢駅のそばにある焼肉店に軽音部は集まっていた。
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