第37話 食欲の秋と恋の行方


穏やかなひだまりが降り注ぐ


生徒達も存在をあまり知らない


校庭の中庭


手入れされた花壇と


ふかふかの芝生が気持ちいい


そして


空腹は最高の調味料





たこ焼きを広げみんなの帰りを待つリコ。



ユリが焼きそばをかかえ合流する。




リコ「あ、まだ、みんないないから、これ、先に渡しておくね。イケメン要望リスト。こんな感じにカスタマイズお願いします!」



メモを開くユリ。



ユリ「随分……要望が……多い……けど……。」


リコ「あ……やっぱり?なんか、これからずっと一緒って思うと、完璧にって思っちゃって、考えてたらそんな感じに……あれ?2枚書いたはずなんだけど1枚しかなかった?」


ユリ「1枚だけど……?」


リコ「う〜ん、まぁ、特に変なことも書いてなかったと思うし……ま、いっか!メインはそっちにいっぱい書いた気がするし!」


ユリ「名前はどうするの?」


リコ「名前もね〜ずっと考えてたんだけど……。」


ユリ「しばらくは保育器の中で睡眠学習だからまだ名前は必要ないけど、つけてあげた方が愛着早く湧くと思うよ?」


リコ「ノズ……ノズかな!」


ユリ「ノズ?」


リコ「うん。私、昔から、ジョージエーリオットのノズの魔法使いっていう絵本が大好きで。ノズにする!」


ユリ「わかった。ウズラじいちゃんに伝えておくね。」





マリ「お〜い!」


マリが二人を見つけ手を振る。


その後ろで沢山の食べ物や飲み物を抱えたハイネとクルルがやってくる。


ユリ「こっちだよ〜!早く食べよっ!」



軽音部一年生の一足早い打ち上げが始まる。






ヒデ「あれ〜……リコちゃん……どこ行っちゃったんだろ……。」


リコを探し、見つけることができなかったヒデは、ろくに休憩もできないまま、持ち場に帰って行った。








一方、音楽室では。




サチコ「ハナ君……もう、出て行っても大丈夫?」


ハナ「大丈夫です、すいません、隠れてもらっちゃって。」


サチコ「関係者以外立ち入り禁止……だったっけ?」


ハナ「午後からはここで演奏もするのでお客さん入れるんですけど……。なんか、すいません、思わず隠れてもらっちゃいました。」


サチコ「で、着替えは終わったのかな?」


ハナ「あ、はい。すいません、汗かいてたんで本当に着替えさせてもらいました。」


サチコ「私の目の前で着替えてくれてもよかったのに……なんて、ごめんね、からかいすぎちゃったかな。リアクションが新鮮でつい……フフフッ。」


ハナ「サチコさん、俺はサチコさんが好きです。」


サチコ「うん。」


ハナ「俺……。」


サチコがハナの口を、指先で優しく塞ぐ。


サチコ「ワガママ……言っていい?もうちょっとだけ、今のまま……ね?」


ハナ「……はい。」


サチコ「ありがとっ!さ、ご飯食べよ!お腹すいちゃったよ!ほら、こっちこっち!」






サチコはハナの手を引っ張り連れ出す。


音楽室のテーブルに出店で買ったものを広げはじめる。




ハナは断られたのではない、ということだけを望みに、目の前で美味しそうにポテトをつまむサチコとの二人の時間を


今は楽しむ事にした。





午後から体育館では、オーケストラ部によるコンサートが行われた。



音楽室では軽音部がアコースティックライブをしており、ユリが初めて作曲した曲を初めて弾き語りで披露した。




ユリ「あぁ〜っ!緊張した〜っ!」


リョーマ「すごい良かったよ?」


ユリ「本当〜?」




ユリの背後から近づく人影が、大きな手でユリを目隠しする。


ユリ「きゃっ!」


「だ〜れだっ?」


ユリ「えっ……誰っ?!」


「そんな不審そうな言い方しなくても!ほら、差し入れ。」


ユリ「きゃっ!」



背後の人物はユリの頬に冷たいペットボトルを当てる。



ユリ「トーリ!」


トーリ「もうサイコーだったよ!!俺への気持ちなのかな〜?そんな切ない思いさせちゃってごめんねって!俺キュンキュンしちゃったもん。あ、お兄さんも飲み物どうですか?」


リョーマ「いや、結構。」


トーリ「やっぱり、好きだなー!ユリちゃんの歌!」


ユリ「緊張でだいぶ声震えちゃってて……。」


トーリ「それも良いんだよ!頑張ってるなー!可愛いなぁーって!ね、お兄さん!」


リョーマ「私は一体誰の兄なんだ?」


トーリ「ユリちゃんのお兄さんじゃないの?親戚のおじさんか何か?」


リョーマ「君、失礼だな?」


トーリ「まさか、彼氏じゃないでしょ?ユリちゃん、俺というものがありながら。」


ユリ「えっ?!ちょっと、誤解を招くようなこと言わないでよ!」


トーリ「そんなこと言って、俺のために歌うこと決意してくれたくせに♡俺のためにユリちゃん頑張ってくれたんじゃないの?」


ユリ「そんなわけないでしょ!?とにかく、まだ私忙しいから!リョーマも来てくれてありがとうね。」


トーリ「ユリちゃん、俺は〜?」


ユリ「トーリも、聞いてくれてありがとう。私、次の手伝いしないといけないから!2人ともまたね!」



音楽室の奥へ消えたユリを見送りトーリが真面目な顔でリョーマに質問をする。



トーリ「彼氏なんですか?」


リョーマ「…………そうだ。」


トーリ「即答できない関係ってことですよね?俺、ユリちゃんのファンでもあるけど本気なんで!覚悟しといてください。ガキ扱いしてると痛い目見ますよ?失礼します。」



トーリは啖呵を切りその場を後にした。



リョーマ「若いな……。」







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