第31話 食欲の秋と始まりの歌


ひんやりとした体育館


全校生徒


校歌斉唱


粛々と進む開会式の中で


落ち着かない雰囲気





文化祭実行委員が慌ただしく動き始める


そわそわする生徒


というのも


今年はアルモトアールのプロデュースする

アイドルグループSR48のツートップ、アオヒナとプクリーヌが


オープニングアクトとしてやってくると噂になっていたため、生徒たちはステージが始まるや否や、我先と走り出す準備をしていた。




校長「あ〜大丈夫かなぁ……僕じっとしていられないんだよね〜……生徒のふりして手伝ってきちゃおうかなぁ……。」


サクラ「校長、始まりの挨拶がもうすぐなんですから。」




サングラスをかけたガタイのよいスーツの男たちがステージ前に現れる。口を一文字に結び生徒たちと相対する。




校長「全校生徒の数をあの人数の黒服だけで抑えられるかなぁ……。」


サクラ「今年は人数だいぶ増えましたけど……。というか、文化祭なのに黒服の威圧感すごいですね。」


校長「若者のパワーはすごいからね。我を見失ってアイドルに飛び込む生徒が毎年いるから用意してるけど……今年はね、SR48だから。念には念を……。」


サクラ「あ、ほら、校長挨拶ですよ……。」




生徒会実行委員会に呼ばれ、校長は手短な挨拶をする。



校長「……です。では、みなさん、お待ちかねの真紅フェスを楽しんでください。」



パッと暗転するステージ。


それと同時に湧き上がる歓声、拍手。



アオヒナ&プクリーヌ「「……(せ〜のっ)真紅フェス!!始まるよ!!!」」



わあああああ!!!

キャーーーー!!!


盛り上がる全校生徒。歓喜の声が体育館を包む。


と、同時に暗闇の中走り出す全校生徒。


ドドドドドドドド!!!


地響きと共にミリオンセラーを売り上げた名曲のイントロが流れる。


ステージライトが派手に会場を照らし、どこからともなくサイリウムを手にした軍団はシンクロした動きを見せ始める。



パッとスポットライトに照らされたのは


噂のアオヒナとプクリーヌ。


お揃いの可愛い衣装で登場し、見事なハーモニーを披露する。



ステージ前の黒服たちに抑えられるギリギリのラインまで詰めかける生徒たち。


雪崩に巻き込まれないように暗転と同時に女子生徒は綺麗にセパレートして左右の壁に避難しており、ステージ前に詰めかける男子生徒の中には、もみくちゃになり鼻血を出している生徒もいた。


その中でもひときわ際立って、SR48命の鉢巻をした文化祭実行委員の会長シアーイと副会長トマースの目は血走り、鼻息荒く、最前列で今にも飛びかかりそうだったため、黒服からは特に注意されて見張られていた。




シアーイ「アオヒナ!アオヒナ!アオおおおおおおおおひなぁぁぁぁがぁぁぁ!!目の前にいいぃぃ……!!神々しいぃぃぃい!!!」


トマース「ぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷく♡あーーーーっ♡かわいいーーーっっ♡ぷくぷくぷくぷく♡」


サクラ「オープニングアクト招待の決定権はあの2人でしたよね?あの2人明らかに職権を濫用して私腹を肥やしてるわね……。」


校長「まぁまぁ、文化祭運営はかなりの重労働ですから。それぐらいご褒美があってもいいんじゃないんですか?」


サクラ「校長……。寛大ですね……。」




サイリウムを振り上げるスキー部達、ヒデとヨシキはもちろんSR48命の鉢巻をして最前線グループのにいた。



アオヒナ「今日は、こ〜んな大きな学校の文化祭にお招きいただいて、ありがとうございま〜す♡」


シアーイと男子生徒「うぉぉぉぉぉぉおおお!!!」


プクリーヌ「次は新曲をやっちゃうよ〜♡」


トマースと男子生徒「うぉぉぉぉぉぉおおお!!!」


アオヒナ「サビの振り付け、簡単だから、みんなも踊ってみたの動画、SYNCsickにアップしてくれたら、アオヒナ嬉しいな♡」


シアーイ「うぉぉぉぉぉぉおお!する!する!!

今すぐするうぅぅぅぅ!!!全てを捧げてするぅううううぅぅぅっ!!!」


プクリーヌ「私たちの、SYNCsick、フォローしてね♡」


トマース「ぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷくぷく♡いっぱいフォローしてる!全ての端末、複数アカウントで多重にフォローしてるうぅぅっ!!ぷくぷくぷくぷくぷく♡」




自我を失い、身を乗り出し始めたシアーイとトマースをはじめとした最前列集団と、黒服たちの無言のモッシュが始まる。




アオヒナ「ほらほら!みんな〜?!……ちょっと、落ち着こっ♡」


プクリーヌ「仲良くして?ケンカは……や・め・て・ねっ♡」


校長「おお、すごい!我を失いかけた生徒たちが言うことを聞いている……。」


サクラ「さすが、トップアイドルですね!」




その後、SR48のステージは生徒たちが我を失いかけるたびに、アオヒナとプクリーヌの呼びかけによりに見事に鎮圧され、平和に進行して行くのだった。




そんな中、今にも吐きそうな顔で、1人緊張に胃をつかまれたまま昨晩眠れていなかった男がいた。




ずっと待っていたタナカちゃんからの連絡。

パソコンに届いたメールには


″明日、時間が合えば伺います。タナカサチコ″


とだけ書かれていた。



メガネのずれが、いつもより気になる。

長い前髪も、いつもより気になる。


大丈夫。


きっと、大丈夫。




タナカさん……


サチコ……ちゃん


タナカ サチコ……さん?


なんで呼んだら……



上目遣いの彼女の笑顔が、もう一度自分に向けられることはあるのだろうか……。



SR48のステージが終わり、想い人が来てくれることを祈り、眠れなかったハナはふらりふらりと音楽室へ姿を消していった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る