第28話 食欲の秋と林檎色の頬
澄み切った朝の空気は清々しい
いつも通りの図書室で
気になるあの人の影を探す
色づく木々と揺れる乙女心
窓から入る冷たい風にさらされて
マリの頬は林檎色に染まっていく
マリ「デールさん……今日もかっこいいな。……あれからもう3ヶ月……か。」
マリは春にちっぷ亭で、自分の名を間違えて名乗り、一緒にカレーを食べて以来、
デールと直接話ができるタイミングがやってこないことに、気を落としていた。
夏祭りのバイトでやっとデールに近づけたと思ったのに、やはりそこからの進展は何もなかった。
マリ「人混みを掻き分け、私の元にやってきたデールさん……。私にひざまづいてくれるデールさん……。お姫様抱っこで教会に運んでくれたデールさん……。
はぁ……。」
マリは毎日デールのことを考えていた。
どうすれば、もっと彼に近づける……?
マリはぼんやりと、風に舞い上がる枯葉の種類を選別しながら思索に耽っていた。
ふと音楽室に目をやると、ハナが妹に何かを取り上げられ、取り返そうと追いかけ回している。
ハナ「おい!こら!返せ!」
妹「お兄ちゃん、これから大事な大学受験ラストスパートなのに、こんなラブレター貰ってる余裕あるなんて!」
ハナ「それは、俺が今まで積み上げてきた成果なんだ!軽々しく触るなっ!まだ俺だって中見てないのにっ!あぁぁぁっ!こら!開けるな!!」
マリ「へぇ〜。ハナ部長ラブレターもらったんだ……。いいなぁ。」
手紙……でも描いてみようか……?デールさんに。
でも何を書けば……。
うーん。
とっても気になるし、カッコいいけれど、それと好きはまた別の問題で……。
好きになるためにもっと相手のことを知りたいが、接点がなければ相手のことも知り得ない。
このままだと、どんどん妄想のデールさんを好きになってしまう。
本当のデールさんが知りたい……。
マリがちっぷ亭に再び目をやると、チップが外の通りから見えるように、窓ガラスにバイト募集のチラシを貼り付けているところだった。
マリ「!」
これだ!
マリは電話番号を記憶に残し、急いで学校の公衆電話まで走り、小銭を入れる。
チップ「はい、ちっぷ亭。」
マリ「あの……!アルバイト、したいです!」
チップ「えっ?今チラシ貼ったばかりなのに?!」
マリ「はい!あの、わたし軽音部のマリです!朝のこの時間もバイトできます!お願いします!」
チップ「それはありがたいけど……。あれ?確かマリちゃんの家って厳しいんじゃなかったっけ?一応未成年だから親御さんの同意もいるけど……。」
マリ「あ……。今日話してみます……。」
チップ「うん、それからまた連絡して。うちとしてはぜひお願いしたいけど、学業も親御さんの考えも大事だからね。」
マリ「わかりました。また連絡します。失礼します。」
受話器を置きマリは無言でガッツポーズをした。
ニヤニヤが止まらない。
あぁ!これでもっとデールさんに近づける!
そのためには何としても親からアルバイトの許可を取らないといけない!
あぁ!私のデールさん!待っててね!
マリはどうやって親を説得しようかと、スキップしながら図書室へ戻って行くのであった。
マスカットの香りと林檎色の頬をして。
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