第27話 食欲の秋と檸檬の彼


ボルドー色の扉に真鍮の取手


ずっしりと重いちっぷ亭の扉を開くと


完璧なプロポーションのケイティが座っている


日本語の教科書には沢山の付箋


バックパックの中に覗くのは


ノート、教科書、真紅大学の学生書





ケイティ「ん?あら、またアナタ。戻ってきたの?」


リコ「……。」



リコに気付き、日本語の教科書から視線を上げたケイティの瞳は、少し青みがかって吸い込まれそうなくらい美しかった。



ケイティ「なんなの?その思うところがありますけれどって感じの顔!そんなに外人が珍しい?」


リコ「そんなこと……。」


ケイティ「も〜。何よ、言いたいことあるなら言いなさいよ!こっちは気になるの!」


リコ「別に……。私は何も。」


ケイティ「何もって顔じゃないから言ってるんでしょう?これだから日本人は!ウジウジして!」


リコ「私は別に貴方が外人だからみてるわけじゃないです……。」


ケイティ「なら何でよ?!言ってみなさいよ!」


リコ「あの……すごいお綺麗だなと思って……。


男性なのにスタイルも完璧だし、どうやったらそんなふうに自信が持てるのかなって……キラキラしてるし……。


なんか……その……私なんて人見知り凄いし……そんなふうに堂々としていられなくて……だから……その……羨ましくて……あの……ごめんなさい。」



消え入りそうな声でリコはうつ向く。



ケイティ「!!!アナタどうして男だってわかったの?!私のボディーもメイクも完璧なはずなのに!!」


リコ「あの……えっと……ごめんなさい……。」


ケイティ「でもやっぱり物珍しさで見てたんじゃない!それに私の事、褒めてるんでしょ?なのに謝り過ぎ!お国柄?日本人っていっつもそう!全然褒められてる感じしない!」


リコ「違……あ……でも……ごめんなさい。」


ケイティ「ほら!また!」



フン!とため息をついて脚を組み直したケイティは、ハッと何かを思い出し、悪戯な笑みを浮かべてリコを見つめる。



ケイティ「……ま、でもしょうがないわよね?こんなに私、綺麗だから。ついつい見惚れちゃってたのね〜。」


リコ「……はい。」



うつ向くリコはケイティの顔を見ることができない。



ケイティ「じゃあ、私にはパク君取られちゃってもいいのよね?」


リコ「パッ……パク先輩は彼女がちゃんといますし!そんなんじゃ……。」


ケイティ「ふ〜ん。


私は男よ?身も心も男。だけど美しい体が欲しくて、美しい顔が欲しくて努力した。血の滲むような努力をね。


その行き着いた先がこのビジュアルってだけ。これを維持するのも、すごくすご〜く大変なんだから!


おわかり?!」


リコ「……。」


ケイティ「だけど決してつらくなんかないのよ?楽しくてしょうがないの。昨日より今日の自分が、自分の理想にどんどん近づいていくんだから!


アナタ、自分に自信がないって?


そんなの、自信なんて勝手についてくるわよ。

だって素直な自分の欲望を、叶えたい自分の本当の欲望をどんどん叶えていってるだけなんだから。」


リコ「そう……なんですか?!」


ケイティ「そうよ!私がいいお手本じゃない?


どうせアンタ、世間体とか制裁取り繕って、やりたくないことやったり親の顔色や周りの顔色伺ってるんじないの?!」


リコ「……そうかも……しれません。」


ケイティ「でしょ?とっとと自分に素直になりなさい?手に入るわよ、何でも。」


リコ「……素直……。」


ケイティ「よかったら、良いレモン型のシリコン、おっぱいに打ち込んでくれる美容整形、紹介するけど?」


リコ「間に合ってます!!」


ケイティ「フフッ。で、パク君には告白したの?」


リコ「だっ!だから!……違いますって!」


ケイティ「ふ〜ん。ま、私はもう、もっといい人見つけちゃったから、どうぞ勝手にご自由に。」




ヒラリヒラリと手を振ってケイティは熱い眼差しをブロリーに向ける。


席の片付けを終えたブロリーは、両手で沢山の食器とカトラリーが乗せられたお盆を持ち、こちらに戻って来ていた。


とても重たそうに。




ブロリー「すいません、お待たせ……し、まっ、あわぁぁぁああ!!」


ケイティ「あぶない!」



ブロリーは忙しく焦っていたため、段差につまづき前のめりに転んでしまう。


とっさに滑り込み、片手でお盆を軽々持ち上げ、もう片方の腕と胸でしっかりブロリーを受け止めたのはケイティだった。


ケイティ「気をつけて。大丈夫?」


ブロリー「す!すいません!怪我は?!」


ケイティ「こんなに沢山の食器、お兄さんちょっと頑張りすぎじゃない?バイトが必要なら手伝うのに♡ワタシ、力持ちよ♡」


ブロリー「本当に助けてもらってばかりで……すいません!(どうしよう、胸に顔が埋まってしまった……。あっ……もしかしてこれって後でお金請求されるやつ……?)」


ケイティ「ん?ちょっと赤い?お兄さん熱でもあるんじゃないの?」



ケイティは軽々立ち上がり、ブロリーの額に手を当てて上目遣いで見つめる。



ケイティ「……大丈夫?」


ブロリー「あの……(絶対後で怖いお兄さんが登場するやつだ……。どうしよう……。)」


ケイティ「このお礼は、アナタの仕事後にゆっくり聞いてもらおうかしら……。とりあえず、連絡先、教えて♡」


ブロリー「あのっ……。はい。(ガクブル……。)」



ブロリーは天使のような微笑みのケイティと、後で何を請求されるのかという恐怖で天国と地獄を同時に味わっているような気分になっていた。



リコは押しの強いケイティと、メンタルに発言が追いつかないブロリーのやりとりを見届け


気配を消して地下へ向かい、心配するパク達をよそに、たこ焼きをぺろりと30個食べたのであった。






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