第26話 食欲の秋と美しい彼


日がどっぷりと落ちた頃


満席のちっぷ亭に照らされた空は群青色に


ピカピカに磨かれたカトラリー


白の食器に美しく盛り付けされた料理達


グラスの水滴がテーブルを濡らし


あちこちで楽しそうな笑い声が響く




『カランカラ〜ン♪』



ブロリー「いらっしゃいませ!(あぁ……またお客さんだ……。)」



黒のカフェエプロンのポケットに、オーダーシートとペンを放り込む。


パリッとした白シャツに茶色の丸盆を脇にかかえ、素早く客のもとへ向かう。

 


ポニーテールの女子高生「きゃー♡ブロリーさんだ!一緒に写真撮ってください♡」


ブロリー「えっ……あの……(あぁ……仕事が進まない……御飯時は勘弁して……。)」


ショートカットの女子高生「雑誌よりかっこいい〜!キャー♡くりくりヘアーも可愛い〜♡」


ブロリー「あっ……その……(ただの天パなんですよ……。貴女みたいなサラサラヘアになりたかったよ……。)」



困っていても言い返せないブロリーを見かねて、ケイティはリップを塗り直し、こっそりと胸の位置をグイッと寄せて上げる。


髪をかき上げながら、ため息混じりに2人の女子高生とブロリーの間に割り込む。



ケイティ「ねぇ?ちょっと、アンタ達何なの?お客じゃないなら帰りなさい?仕事の邪魔よ。じゃーまっ。」


ポニーテールの女子高生「えっ……。」



ケイティのスタイル、美貌、抑圧的な態度に圧倒的女子力のマウントを取られ、2人の女子高生は何も言い返せなくなり大人しくなる。



ケイティ「食事しないんなら、お店の迷惑だから。さっさと帰って?キャーキャー言うなら私の許可取って?私の彼だから。」


ブロリー「えっ……。(なにそれ!初対面なんだけど!……でも……何?強引なのって……なんだかちょっとドキドキ……。)」


ショートカットの女子高生「そう……なんですか……すいません……。」


ケイティ「食事していくならいいのよ?ほら。ここに名前書いて?私もこれから食事なの。一緒にここで席が空くの待ちましょ?」



ケイティは待合の椅子に座り、長い足を組んで、隣の席をポンポンと指定する。



ポニーテールの女子高生「すいません……。帰ります……。」



ばつが悪そうに、女子高生達はちっぷ亭からそそくさと逃げ去っていった。



ケイティ「ごめんなさい、ちょっと強引だったかしら。日本語ってニュアンスがまだよくわからないわ。」



ブロリー「あの……助けてくれたんですよね、(日本語わからないとか言ってめちゃくちゃ流暢だけど……。)ありがとうございます。


僕、ああゆうの断れなくて……。(だって逆恨みってこわいじゃないですか。)


ああやって捕まっちゃうとお店のことできないから、すごく、助かりました。(他のお客さんの目もあるし、マスターだって見てるし。)


お待たせしているのに、本当にすいません、ありがとうございます。(さっき僕の後ろについてキッチンまで入ってきたことは、許しますね。外人っぽいし。文化が違うとかありますもんね!)」


ケイティ「うーん、顔もスタイルも私好みなのに、私が好きになる男ってみんないつも……。」


ブロリー「……え……あの……えっと……。(どういう事だろう……。)」


ケイティ「……そうね、日本に居られる期間も決まってるし。もう長いこと待ってられないし。いいわ、私アナタに決めた!」



チップ「おーい、レジ頼むー!」



キッチンから、両手にそうめんと天ぷらの盛り合わせを持ったチップがブロリーに呼びかける。



ブロリー「はーい!今行きます!(何を決めたんだ?)……あの、とにかくありがとうございました。レジ終わったらすぐ席あけますので!」



レジを打ちながら、てんてこまいになっているブロリーを、ケイティが不敵に笑みを浮かべ見つめる。



ケイティ「日本人っぽいと言えばそうだけど……可愛いじゃない?育てがいがあるってもんね。ウフフ♡」



『カランカラ〜ン♪』



謎の男の匂い捜索を打ち切ったリコは、ちっぷ亭の待合フロアで改めてケイティと鉢合わせてしまった。

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