【スピンオフ3】サクラ先生の秘密3


ギュッと目をつぶってしばらく、


サクラは自分の体のどこから触られてしまうのかと、全身に神経を集中させて、身をこわばらせていた。


……。


……。


……。


ん?


あれ?


サクラが何も起きないな、と薄っすら目を開けた途端、ヒロはサクラの頬にキスをした。


ヒロ「ごめんって!そんなに怯えなくたっていいのに!サクラ、昔のノリ忘れちゃった?よく色々お芝居して遊んだでしょ?誘拐ごっことか、盗賊ごっことか、不倫の設定で遊んだの覚えてない?鍵なんかしてないし!」


ヒロは本気で怯えていたサクラをケラケラと笑ってバシバシ叩いていた。


サクラ「大人をからかって!ヒロ!」


ヒロ「それとも本当に何かして欲しかった?」


サクラ「いい加減にしなさい!」


キスされた場所を押さえて何だかちょっと嬉しいような悲しいような。


私の覚悟を返して……。


ヒロ「そうそう、その感じ、楽しかったよねあの頃!」


そうだ、確か変に大人びた設定のお芝居をよくやっていたような気がする。


しかし、それからパッタリとヒロはからかう事をして来なくなった。


そのためサクラはヒロの事が気になって仕方なかった。


あれだけ距離を詰めておいて急によそよそしくなるなんて。


こっちが意識しちゃうじゃない!


だって出会った頃のヒロは小学生。くりくりパーマのこんがり焼けたちっちゃな可愛い男の子。


日本語のわからないスペインの大人たちに、日本語で悪口言ったりしてゲラゲラ笑ってたあの頃と本質は変わってなさそうだけど、


そりゃあ年頃になれば異性を意識したスタイルにモデルチェンジしたりもしますよね……。


カッコよくなったよ。君は。ドキドキしちゃうよ……。


実際ヒロは同じクラスの女子にもあからさまに狙われている。そりゃあ魅力的ですよ……。


あんなに攻めてきたのに今度は何で何にも言ってこないのよ……。


悲しいかな、教職よりひとときのロマンスを私は求めようとしてしまったよ……。


神様ごめんなさい……。



……。



うん。だけど、もう、揺るがない!私は鉄の女!



鉄の女教師サクラよ!!




実習最終日。




サクラ「短い期間でしたがありがとうございました。」


校長「たいへん評判良かったですよ。生徒さんからも他の先生からも。」


サクラ「よかったです。」


校長「就職の際は是非うちの高校も候補に入れて検討してくださいね。サクラ先生の評価は花丸つけておきますからね。」


サクラ「ありがとうございます。」


あっという間に終わってしまった2週間の教育実習。

ヒロのことは置いておいて、非常に充実した貴重な期間だった。


教鞭を振るうのはやりがいがあって楽しい。意外にも素直な子が多くて、彼らの成長を見ながら仕事をするというのもきっと悪くない。


サクラが校舎を後にして正門からちっぷ亭へと道路を渡って行こうとしたそのとき。


「サクラ!」


振り返るとそこにはヒロがいた。


ヒロ「サクラ待って!」


サクラ「ヒロ……。」


ヒロ「これ……。」


サクラ「オモチャの指輪……?」


ヒロ「覚えてない?この前、からかい過ぎちゃったから、どのタイミングで渡したらいいかわかんなくなって……。子供の頃、俺この指輪でサクラに一回プロポーズしたの覚えてる?」


サクラ「うん……でも遊びの中ででしょ?」


ヒロ「やっぱり……。じゃあ何で俺がおもちゃの指輪をこんなに大事にしてたと思う?」


サクラ「え?」


ヒロ「持って行って。それ。」


サクラ「……。」


ヒロ「今は俺も立場をわきまえるよ。先生になるんでしょ?俺も夢があるし……。また、連絡する。」


じゃあ。と手をあげてヒロはそのまま帰って行ってしまった。


サクラ「私の連絡先なんて知らないでしょ……?」


教職を目指すものが現役高校生となんてありえない。あれは私の勘違い。そう、もうあうことなんてない。



これでいい……。



そう思ってそのまま数ヶ月が経ち、何気なくテレビをつけていたサクラは、ドラマにヒロが役者と出ていたため、飲んでいたワインを盛大に吹きこぼした。


英語とスペイン語と日本語のトリリンガル。イケメン若手俳優。


ワイドショーにも取り上げられて、友達の間でも話題に上がってしまう。


忘れたかったのに……。


もう!!




サクラがヒロの活躍を知ってまた数ヶ月後に、1通の手紙がポストに入っていた。


差出人は未記入だったが、分厚いそれには不信感では無く、早く中を開けて確かめなければならない大切な事が書かれている気がしてならなかった。


サクラはその場で封筒を破り中を確認する。


サクラ「やっぱり……!!」



"親愛なるサクラへ――


サクラ、サクラ、あぁ、サクラ。君の美しい名前を、あの日マドリードの地で訪ねた時から、僕の心は君でいっぱいだった。サクラ、君は異郷の地で一人ぼっちだった僕に一筋の光をくれたんだ。サクラ君は覚えているかい……。"


サクラ「ちょっと待って、あの子高校生よね?何この冒頭のジジクサイ感じは……サクラ、サクラって何かの歌の歌詞?何回呼ぶのよ。ひとりぼっちって何人もガールフレンドいなかったっけ……。」


笑いながら、サクラは最後まで何枚もある手紙をその場でたったまま読み尽くす。


要約すると、彼にとってサクラという名称は、自分のルーツの象徴であり、本気で好きでたまらない女の名前だという事。そして恋焦がれて再び再開できた事は運命以外の何者でもないと。


サクラ「ふふっ。今では君に名前を呼ばれなくて寂しくなってる自分がいるわ。」


自分の名前を呼ばれるのがこんなにも愛おしい気持ちになれる日が来るなんて。


ヒロは最後に自分の連絡先を記していた。


サクラは携帯で直接その番号に電話した。


その数年後2人は世間に内緒で結婚した。




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