第18話 真夏の夜の契約


リコちゃん……?君の瞳に光るそれは……?


何か嫌なことでもあったのか……?


リコちゃん、今日俺はフウカのお母様、ユウコ様に帰りは遅くならないように約束したんだ。


フウカとの夏祭りは楽しくて、花火も見たし本当ならもう帰らないといけない。


だけどね、ちょっと聞いてよ!フウカちゃんって、すっごくすっごく誘ってくるっていうか


浴衣が脱ぎたい、まだ帰りたくない!って感じをすごく出しているんだ……。


下駄が痛いとか、帯が苦しいとか、浴衣は暑いとか……

人が多いから空くまでもうちょっと座ってようとか……


え?他意はないって?いやいや、ちょっと汗ばんでてほっぺも赤くて……ほら、この、笑顔。フウカちゃんが本当に帰りたいわけないじゃない!


だけど、フウカちゃん。ちょっと待ってて。


突然俺の前に登場したリコちゃん。

どうして泣きそうなの?!……あっ!もしかして!!


リコちゃん俺の事……!!そうなの?!それでそんなにお目々がうるうるなの?


告白されちゃうのかな、これ、俺を取り合って2人が喧嘩しちゃうやつ?


いいねいいね、一回経験してみたいよねー!


「私の彼氏よ!」「私も先輩が好きなの!」


そうそう、両方に迫られちゃったりなんかして!俺どうしたらいいのーって鼻の下伸ばしちゃうやつー!?


なんか俺、あの海の合宿ぐらいからついてんなー!!



ヒデの妄想が膨らむなか、遠くからユリがリョーマと一緒にやって来た。


リコ「あの……お迎え来たみたいなんで大丈夫です……ありがとうございます……。」


フウカ「そう?……じゃあまた、学校でね。」


ユリ達に気づいたフウカと、ちょっとだけ後ろ髪引かれるような顔をしたヒデは、ほとんど人がいなくなった河川敷を歩いて行く。


ユリ「マリちゃんがデールさんに連れられて帰ってくるから、サクラ先生とリコちゃん置き去りだ!って心配して来たんだよー?」


リコはユリも男連れなのかと、気づいた途端、自分がこの世で1番惨めで情けなくてどうしようもないやつに思えて、涙をこらえることができなかった。


リコ「うわーーーーーん!」


ユリ「りこちゃん?!」


自分は何で間抜けなんだ。そもそも鼻栓が吹き飛んだあたりからちょっとおかしかった。


マリちゃんは待っていたって王子様がやってくる。


パク先輩は彼女いるのに女が寄ってくる。


ティティだかケンティだか知らないあの子は自信たっぷりで自分の欲望に忠実になれる。


ヒデ先輩とフウカ先輩は夏祭りも青春もしっかり楽しんでる。


ユリちゃんだって彼氏いないって言ってたのに、このリョーマって人、やっぱりかっこいい!なんかちょっと金属みたいな匂いするけど……。


リコ「ユリちゃんずるい……!私だって彼氏欲しい!」


ユリ「えええ?!」


リコ「かーーーれーーーしーーー!!」


リコが顔をグジャグジャにして泣きじゃくるため、見るに見かねたリョーマが、ユリに目で確認をする。


ユリが仕方なさそうな顔でコクリと頷くとリョーマはリコを優しく抱きしめて涙を拭き頭をポンポンした。


リコは起きたことが理解できずにいたが、あまりの心地よさにリョーマに体を預けてしっかりハグしかえした。そして深く息を吸う……。


リコ「……?!」


リコはリョーマの顔をがっしり両手で掴む。


リコ「え……?人……間……ですよ……ね?」


リョーマはにっこり微笑む。


ユリ「リコちゃんにはやっぱりすぐバレちゃうね」


リコ「?!?!」


ユリ「リョーマはね、うずらじいちゃんと作った、私のケアロボット。正確にはクローン人間の体内にいろんなコンピューターがはいってる。」


リコ「?!?!」


ユリ「リコちゃんが鼻がめちゃくちゃ効くことはわかってたよ。……やっぱりクローンだと人間とはちょっと匂い違うのかな?」


リョーマ「数値的には普通の人にはそうそうバレないレベルだと思うけど……?」


ユリ「そういうことなので、内緒にしておいてもらえるなら、鼻の事ウズラじいちゃんと何とかできると思うんだけど。」


リコは抱き心地良すぎるリョーマに抱きついたままユリに提案を持ちかけた。


リコ「……私もイケメンがいい。」


ユリ「うーん……。」


リコ「……イケメンがいれば一生、口呼吸でもいい。」


ユリ「……。」


リョーマ「ウズラ博士に確認する?」


ユリ「……うん。」


リョーマは2人から少し離れ、片手を耳に当てどうやら博士に通信をして確認しているようだった。


ユリ「リコちゃんがこっち側についてくれるならありがたいけど……。」


リコ「こっち側?ユリちゃんいつからイケメンと一緒だったの?」


ユリ「……3年ぐらい前からかな?でも怖くないの?クローンだよ?」


リコ「イケメンならクローンでもロボットでも宇宙人でも私は愛せると思う!」


ユリ「そもそもクローンとか嘘だとか思わないの?」


リコ「ユリちゃんいつも色々隠してるなって思ってたことあるから……。何かあるんだろうとは思ってたけど、こんなイケメン隠してたなんて!」


ユリ「……私の事……怖くない?クローン作ってるんだよ?」


リコ「?怖くないよ?ユリちゃんは嘘ついてないし、ユリちゃんだよ。私だって鼻が効きすぎて異常だなってずっと悩んでたし隠してきてたから……。でも、イケメンがそばにいてくれるなら頑張れる。」


ユリ「……リコちゃん、将来ホストに貢ぎそうで心配だよ……。でも私たちも仲間はできるだけ多い方がいいから。」


リョーマ「博士の了解取れたよ。」


リョーマがポンと、ユリの肩に手を置く。

見上げたユリにそのまま軽くキスをする。


リコ「!!」


ユリ「もう!リコちゃんが見てるでしょ!」


リョーマ「オレが仕事したご褒美をもらっただけ。ふふっ、照れちゃって。ユリは可愛いなぁ。」


ユリ「人がいるとこではダメだっていつも言ってるのに……変なとこ見せちゃってごめんね。イケメンと引き換えにってわけじゃないけど……関わってしまうと、もう普通の生活はできなくなっちゃうよ?」


リコ「こんなに羨ましいとこ見せつけといて……普通じゃないイケメンとの生活のがいいに決まってる……!イケメンのために、私……生きる!!」


ユリ「……うん!私も頑張ってリコちゃん好みのイケメンをおじいちゃんと作るね!」


リョーマ「さ、そろそろみんなのところに帰ろっか。リコちゃん達、チップさん達に売上勝ったんだよ!」


リコ「そうなの?やったぁ!」


ユリ達はその後、勝利の祝杯をあげ、秘密の契約が交わされた花火大会は幕を閉じた。

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