第17話 真夏の夜の鉢合わせ


リコはマリが怪盗デールに誘拐されていくのを見送り、何としても売り上げ金は死守せねばと、お金が入ったバックをしっかり握りしめていた。


花火が終わり、ゾロゾロと人並みが流羽夢駅へと流れてゆく。


明かりのない河川敷を一気に人が移動するため、所々で転んで怪我をしたり、斜面を登ろうとして滑り落ちる輩が後をたたなかった。


子供の泣き声も聞こえる。


ここはやっぱり人の波が去るのを待とう。



ぼけーーーーー。


月明かりの中、1人足元のアイスのゴミに群がる蟻を見て時間を潰す。


小さな1匹の蟻は他の大きな蟻に邪魔されなかなか目当ての場所に辿り着けないようだった。


リコはしゃがみ込み、大きな蟻を指でチョンチョンと遠ざけ、小さな蟻に道を作る。


しかし小さな蟻はうろたえて前に進まない。


それならと、本丸であろうアイスの棒を蟻の目の前に置いてみるもののやはりその場所から動けないでいた。


全く恩知らずな蟻だな。


口呼吸が疲れてきたリコは鼻栓でも作ろうとティッシュを探していると、チカッと後ろから懐中電灯で照らされた。


まるで泥棒が警察に見つかりライトを当てられるかのように。


男の声「……リコちゃん?」


眉間に皺を寄せ目を細めながら声のする方を向くが眩しくて何も見えない。


?「パク君、アタシ怖〜い。」


ピクッ。今、何て……?


?「ねぇ、そんな、変な子ほっといて、早く迷子ちゃん探すんでしょ〜?あっちの暗いところ行ってみようよ〜。」


何でそんなに馴れ馴れしいんだ……


パク「ケイティも迷子なんだろ?友達とはまだ連絡取れない?駅はこの道まっすぐだよ?」


ケイティ「友達はもういいの。私このままパク君と一緒にデートする〜!」


パク「うーん、ちょっと今はそう言うわけにはいかなくて見回りしないといけないんだ……。ごめんね、リコちゃん。1人でこんなところで何してるの?」


リコ「パク先輩……えっと……バイトで……今ちょっと時間潰してて……。」


ケイティ「ふーん。バイトなら問題解決ね。さ、パク君行きましょ!」


ハナと同じく迷子捜索ボランティアのゼッケンをつけたパクはケイティに腕をグイグイ引っ張られる。


パク「何か困ってるなら手伝うけど……大丈夫?暗いし、酔っ払いに絡まれないように気をつけて。」


ケイティ「パク君って本当に優しいのね……でも、大丈夫っていってるわよ。アナタ、大丈夫よね?」


自信に満ちた可愛い笑顔はパクしか見ていない。

大きな瞳、ブロンドヘアーに通った鼻筋。


……ついでに言うなら大きな胸、引き締まったウエスト、大きなお尻。


ケイティ「ほら、ちょっとは何か言ったらどうなのよっ。」


明らかな女としての格差を見せつけ牽制してくるケイティにリコは何も言い返せなかった。


リコ「これから戻るとこだったので……大丈夫です。」


消え入るような声で何とか話す。


ケイティ「ほらね、日本なんて夜でも安全なんだから。私みたいに可愛いと、どこにいても危ないからパク君みたいな人に守ってもらわないと……。ね?友達に会えるまでボディーガード!日本語だってまだわからないこと多いし……お願〜い!」


スラスラ喋っとるがな!


ケイティ「ほら、あっちの暗いところ、小さい子がいたらシクシク泣いてるかもよ?みておいた方がいいんじゃない?」


リコ「私も……もう行くので……。」


パク先輩には彼女がいる。とーっても可愛いミニョン先輩。ティティだかケイティだか知らないけどパク先輩は清楚で可愛いミニョン先輩のもの。よくわからない女の毒牙になんてかからない……はず……。


パク「明るい道で帰って、気をつけてね。」


リコ「はい……。」


ケイティ「そんなに心配なら、これあげる。」


ケイティはリコに近づき胸元にバシッと虫除けスプレーを押し付けた。


リコ「?!」


ケイティ「そんなちっちゃいオッパイじゃ、虫すら寄ってこないでしょうけど!アタシの邪魔、しないでね。」


ケイティはリコの耳元で宣戦布告し、パクの腕を引っ張り暗闇に消えていった。


何か複雑な匂いがするケイティの自信は本物の匂いだった。


……しっかり胸のサイズも確認されてしまった。


ケイティの匂いに若干の違和感を覚えながらも、そろそろ本当に帰ろうと台車に乗せた荷物を確認していると、何やら男女が楽しそうにはしゃいでいる声が近づいてくる。


「もう!今日はもう帰るのっ!」

「いや、もうちょっとだけ!」

「今日はダメ♡」

「そこを何とか♡」


はーいはい、リア充爆発しろってやつですねー。


リコが頭の中で爆弾スイッチを用意すると、手を繋いだヒデとフウカがイチャイチャしながら通り過ぎる。


えっ、あの2人?!


歩きながらのイチャイチャがどんどん盛り上がって来てしまうので、思わず隠れた方がいいような気がしたリコは焦って台車に足を引っ掛け盛大に転んでしまう。


フウカ「大丈夫ですか?!」


気づいた2人が散らばった荷物を一緒に集めてくれる。


ヒデ「あれ?!リコちゃん?!」


バレないように顔を隠しながら片付けていたが、やっぱり見つかってしまった。


リコ「……あ、どうも、こんばんわ……、すぃませぇん……。」


ヒデ「?バイト……かな?」


リコ「はい……まぁ……」


フウカ「これ、荷物、どこかに運ぶの?」


リコ「あ……あの、自分で出来るんで……大丈夫なんで……」


ヒデ「リコちゃん?」


リコの瞳は潤んでいた。

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