第16話 真夏の夜の救世主


失われるために作り上げられた芸術


無常であるからこその美しさ



最後の連発花火は怒号のような音とともに辺り一面を明るく照らす。


リコ「すごかったね……。」


マリ「耳がまだ……ボワンボワンしてる……。」


マリが立ち上がり、グッと背伸びをしたその時


『ドーン!』


マリ「キャッ!」


終わりと見せかけていた最後の花火に、マリはまた驚き足を滑らせてしまう。


マリ「イタタ……。」


リコが助けようと手を伸ばし、マリが立ち上がろうとしたその瞬間、マリの体がフワッと浮いた。


マリ「わわわ!!!」


デール「遅くなってごめん、大丈夫?」


マリはデールに軽々しく抱き抱えられ、目を見開きパチクリさせる。


デール「ごめんね。僕がもっと早く来ていたらこんなことにならなかったかもしれないのに……。足、怪我してない?ちょっと見せてもらっていいかな。」


ひらりとマリをクーラーボックスの上に座らせ、デールはひざまずいてマリの足を確認する。


マリ「痛っ……。」


デール「ちょっとひねったかもしれないね。折れたりはしてないけどすぐ冷やした方が良さそうだ……。このクーラーボックス、氷は残ってる?」


リコ「どうしよう、全部溶けちゃってて……。」


デール「じゃあ……よし、救護テントまで行こう。」


マリ「え……うわぁぁ!」


デールはマリをさらりとお姫様抱っこし、軽々と運んで行った。


マリ「あのあのあのっ!!大丈夫です、下ろしてください、1人で歩けますから!」


デール「こう見えても、僕は医者の卵だよ?足、腫れてきてる。足場の悪いこんな真っ暗な夜道を歩かせるわけにいかないよ。」


マリ「あの!でも!下ろして、下ろしてくださいってば!重いでしょ?恥ずかしい……。」


デール「重くないけど、そんなに暴れないでって……こんな時ぐらい男にカッコつけさせてよ。」


デールはマリに顔を近づけ、黙らせようとする。


デール「ほら、しっかり捕まって。」


マリは頭から煙が出て思考が停止していた。


デール「マリちゃん達、お釣りの小銭持たないで行っちゃったでしょ?僕頼まれてすぐ追いかけたんだけどぜんぜん見つけられなくて。 


本当だったら一緒に花火見たかったんだけど……。やっと見つけた頃には花火終わっちゃうし、マリちゃん怪我しちゃうし。」


マリは、話なんて聞いていなかった。

ただボーッと美しく整った横顔を眺めていた。そして、そっと目を閉じデールにもたれかかる。


デール「あれ、マリちゃん熱ある?」


マリはほんのひと時、ただウットリとデールの腕の中を楽しんでいた。


ハナ先輩ごめんなさい……私、デールさんのことが好きみたいです。あれは事故だし花火の爆音で間違ってドキドキしちゃって、そう、アレですよアレ、吊り橋効果みたいなアレ……


デールさんって遠くから見ていても美しかったけど、こんなに近くで見ても毛穴ひとつ見えないだなんて……


はぁ、どうしよう、お姫様抱っこって本当にあったんだな……ちょっとまって、さっきデールさん私にひざまずいてたよね……あれ、教会に連れて行かれちゃうのかな……私……。


幸せすぎて……このまま息止めて死のうかな……。


デール「……リちゃん、……マリちゃん?大丈夫?聞こえる?」


マリ「あ……デールさん……ちょっとあっちの世界に行きかけてました。」


デール「え?あ……ほら、救護テントについたよ。」


真っ白なテントにマリはデールの腕を借りながら入って行った。

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