第15話 真夏の夜のハプニング


友達 家族 恋人

みんな笑顔で楽しそうだ


沢山の出店

お面 綿菓子 りんご飴

たこ焼き とうもろこしの焼ける匂い


どのお店のおじさんも、いつもちょっと怖かったような。

夏祭りに来たのはいつ以来か……。


金魚すくいがしたくて親にねだったが、生き物は飼えないと、やらせてもらえなかった記憶だけ鮮明に残っている。



マリ「私、実はアルバイト初めてなんだ。ちゃんとできてるかなぁ……。」


リコ「え?そうなの?……大丈夫じゃない?」


マリ「軽音部に入る時も大分みんなに助けてもらって。合宿行くのも、アルバイトするの説得するのも、リコちゃん達がいるからーって、親、説得するのに使わせてもらっちゃって……ありがとう。」


リコ「いくらでも使ってよ、大丈夫だよ?」


マリ「アルバイトずっとやってみたかったんだよね。お金稼ぐのって楽しいね!」


リコ「みんなで作戦会議してた時も楽しかったよね!」


マリ「最初みんなで、試作品飲みながら浴衣に対抗するにはって、いろんなコスチューム着ながらファッションショーしたじゃない?あんな服も露出もしたことなかったからすごい楽しかった!」


リコ「でも最終的に普段着に落ち着いてよかったよね、すごい動き回るし疲れるし……。ミニスカートとか気にしてられないもん。」


「お姉さーん!こっちにビール3本!」


リコ「はーい!行ってくるね。」


マリ「うん。…………ん?あれ?台車が……動かない……?どうしよう。」


「マリちゃん?」


声のする方を振り返るとそこには迷子捜索ボランティアのゼッケンをつけたハナが懐中電灯をもって立っていた。


マリ「ハナ部長!」


ハナ「どうしたの?」


マリ「なんか、台車の車輪がハマっちゃったみたいで動かなくて……。」


ハナ「……あ。本当だ、変わるよ。これちょっと持っててくれる?」 


マリ「はい、ありがとうございます。」


ハナ「結構重いね……よっ……いしょっ……と。ふぅ、1人でこんなの運んでたの?」


マリ「リコちゃんと一緒だったんですけど……」


ハナ「そっか、無理しないで……バイトがんばってね。」


『ドーン!』


マリ「キャッ!」


暗闇を切り裂く銃声のような一発の四尺玉を皮切りに、色とりどりの花火が華々しく会場を揺らす。


マリは思わず荷物を落としハナの胸に飛び込んでしまった。


ハナは突然の出来事に反射的に両手を挙げた免罪のhands upの姿勢をとってしまい、状況が分からず硬直していた。



マリはドキドキがとまらなかった。


花火の音に驚いたからなのか、入学した時から覗き見ていた音楽室にいるハナ部長が、今こんなにも近くにいるからなのか。


私って……ハナ部長のことが……?


リコ「花火すごいねー!近いと音やばいね!」


リコの存在に気づき2人はパッと離れ何事もなかったかのように取り繕う。


マリ「お、お、おかえりなさい!」


リコ「部長!見回りご苦労様です!声張らないと会話できませんね!」


ハナ「そ、そうだね!俺、見回りあるから……!」


ハナはじゃあ、と、手を挙げ、そのまま目線を逸らしながら、そそくさと去っていった。



リコとマリはその場でしばらく花火を眺め、全身に響く花火の音を浴びていた。



色とりどりの光


風が流れ花火の残像が残る


音の振動にズレて


火の粉が尾を引き落ちてゆく


空白の中儚く消えゆく最後まで


息を呑み眺めてしまう


あの人もきっとこの花火を見ている


顔にパラパラ落ちてくるのは……火薬の燃えカス?


そうだよね、近いってことはこういうのも落ちてくるよね……。


リコ「すぅ……ぐっ、……ブボッ!!」


リコの両鼻から勢いよく何かが吹き飛んだ。


火薬の煙にむせ、リコは口を閉じ、咳をしてしまったのだ。その瞬間、勢いよく鼻に詰めていた鼻栓が

両方発射されてしまった。


ロマンチックな気持ちが一気に冷め、誰にも目撃されていなかったか辺りを見回す。


あたりは皆、上空を見上げている。

花火の光しか灯りはない。


はぁ、助かったと思ったら、小さな男の子がこっちを見て爆笑していた。


急いで鼻を拭き何事もなかったかのようにするが、恥ずかしさで全身から変な汗が吹き出した。


子供は親に何か伝えようとしているが、花火の音にかき消されて伝わっていないようだ。


よかった……


冷静に……


冷静に。


大丈夫、たぶん大丈夫……。


リコはマリをツンツンと誘い、子供から見えない場所へ移動して座り、一足早いお疲れ様の乾杯をした。








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