第13話 真夏の夜のアルバイト


ヒデとフウカが向かったのは、真紅学園がある地域の夏祭り。


最終日の今日は盛大な花火が上がる。


毎年中継のヘリが上空を舞い、何台もの救急車が事前に待機するほど、この地域の花火の盛り上がり方は異常で、


迷子もかなりの数が出るため、真紅学園の生徒もボランティアで消防や警察の手伝いをするほどだった。



最寄りの流羽夢駅から、真紅学園を通り過ぎ、音色川の河川敷まで、人、人、人。人の波。


ちっぷ亭と真紅学園のある山葉通りは、毎年この時期になるとたくさんの出店で賑わう。


特に飲食店はトイレ目当ての客が殺到するため、対策も兼ねて店は閉め、出店を出しそこで荒稼ぎする飲食店がほとんどだった。


今年のちっぷ亭は、チップさんの焼きそば屋台と、サクラ先生のティーカクテルをメインとしたドリンクスタンド。


海合宿の乾杯を守れなかった罰ゲームにと、激務であるこの夏祭りの売り子に抜擢されたのはマリとユリだった。


サクラ先生の「バイト代弾むわよ」の一声で、密かに鼻栓をしたリコも参戦し、


全員がちっぷ亭の焼きそばの売り上げに勝ち、海外旅行にでも行こうと意気込んでいた。


というのも、毎年ちっぷ亭焼きそばの売り上げは、出店売り上げTOP3に入るほど。


さらにタイプの違うイケメン3人が甚平姿で焼きそばを売り捌く姿がかっこいいと、ニュースに取り上げられるほどだった。



"クールなオレ様、ちっぷ亭マスター、チップ″


″可愛い王子様、ちっぷ亭バイト、ブロリー″


″セクシーなツンデレ、研修医、デール"



サクラ達は、若さと色気を武器に、あらゆる手段で売り上げを上げようと作戦を練るが、


あたりは着飾った浴衣女子が6割以上、露出しようにも効果は薄く、さらに人混みに揉まれ怪我をしては元も子もない。


正攻法で、集客率と客単価を上げることに的をしぼって挑むことになった。




あたりは薄暗く、花火目当ての客でごった返している。


1日目、2日目と連日かなりの数を売り捌きながら、人混みを相手にしていたチップとサクラは、


本日3日目の最終日、疲労のストレスからか、テンションが異常に攻撃的になっており、ちょっとしたことでも取っ組み合いのケンカが始まりそうなほどに、口調が激しくなっていた。




サクラ「もう!まだ花火まで1時間以上あるってのに在庫の補充が間に合わない!ねぇ!ブロ君!裏の在庫全部持ってきて!」


チップ「おい!こっちのバイト使うな!」


サクラ「何言ってんの!女の子に重たいもの持たせられないでしょうに!」


チップ「力仕事担当のバイトを雇わなかった雇用主の采配ミスだな!こっちだって手いっぱいなんだ!」


サクラ「ブロ君!今からでも遅くない、こっちにつきなさい!報酬は倍払うわ!」


チップ「だめだ!なに勝手なこと言ってる!ブロリー!お前は今俺に雇われている!雇用主の命令を聞かなかったらお前どうなるかわかるか?!」


ブロリーは間に挟まれオロオロしている。


デール「兄さん、さすがにそれはパワハラですよ。」


デールはチップを見ながら浴衣女子に焼きそばを渡す。横顔と首筋のラインが美しい。


デール「あ、割り箸、ゴメンね。忘れちゃうとこだった。」


浴衣女子の手を取り、ニッコリして割り箸を渡す。


彼女は顔を真っ赤にしながらコクリと頷き、そのままデールがお釣りを渡そうと目を離した隙にいなくなってしまった。


その後ろに待っていた浴衣女子4人は、どうやらブロリー目当てだったようで、写真撮影と


ブロリーの「いっぱい食べる女の子って可愛いと思うよ」の一声で、女子たちは焼きそばを大盛りにし、4パックしっかりお買い上げだった。


ブロリー「ありがとう!また、来てね!」


王子スマイルで手を振る。


チップ「あの子たち今日で3日目だよな……。」


ブロリー「そうでしたっけ……?」


デール「モテモテでよく写真撮られてるから、もう、わからなくなってるんですよね、ブロ君は。」


ブロリー「いやいや僕なんてモテたことないですから。」


チップ「その発言世の男子を敵に回したぞ。」


デール「兄さんが1番写真撮られるの少ないもんね。」


チップ「1番忙しく焼きそばを焼き続けてるのは俺だからな。流石に声はかけられんだろう。盗撮はよくされてるぞ。」


サクラ「ねえ!お願い、手が離せないの!ユリちゃん、ブロ君と一緒に裏に行って全部在庫持ってきて!売り切るわよ!」


チップ「おいこら!ブロ!わかってるだろーな!……さっさと行って戻ってこいよ!」


ユリとブロリーがカクテル用の冷凍フルーツやストックのお茶のタンクを台車に乗せて運ぶ。ペットボトルや缶飲料も一緒に売っていたため、時間がかかり2人はどさくさに紛れて、裏でプシュッと休憩していた。


マリ「サクラさん!和紅茶、ラストです!」


サクラ「オッケー!一気に行くわよ!」


ユリとブロリーが休憩を終え補充が終わる頃には、花火まで1時間を切っていた。

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