第7話 真夏の海の深夜のスタジオ



運動部の朝は早い


そのためスキー部の面々は入浴を済ませ柔軟や軽い筋トレをして早めに就寝している。


軽音部の夜は長い


スタジオ完備の合宿所のため、キャンプファイヤーも早々に、仮眠を済ませた猛者たちは、深夜スタジオで基礎練の特訓や曲作りを始める。


リコ「あれ〜クルルこんなところで寝て……疲れちゃったのかなぁ。」


スタジオの前で、リコは真っ赤に日焼けした顔のクルルをみつけた。


汗と疲労と、伊勢海老、カニ、お肉に、ホタテ……野菜食べてないな、コイツ。


この腹の中に自分が食べ損ねた獲物が詰まっているのか……。


ツンツンしてみた。


反応がない。


無防備だ。


ハイネ「あっ、リコちゃん待って。」


クルルとよく連んでいるハイネが油性マジックを持ってニヤニヤしている。


ハイネ「まだ、起こしちゃだめだよ、これしないと。」


ハイネ「ここまで引っ張ってくるの大変で。いつものことだけど。クルルって以外に筋肉質で重くてね。女の子担ぐのは大歓迎だけど野郎はここで十分でしょ。せめて、これぐらい楽しませてもらわないと。」


ハイネはクルルの瞼の上に瞳と、男爵のような髭を書いた。


リコ「じゃあ私も便乗して。」


リコは額に大きく″蟹″と書き加えた。食べられなかった恨みは大きい。


『カシャ!』


通りかかったユリが撮影する。


ユリ「多分このままクルル君起きないと思うから……」


そっ……


ユリがダンボールをクルルに掛ける


リコがダンボールにキュッキュと書く。


″決して噛みません。よく躾された子です。よろしくお願いします。″


リコ「よし。」


3人はスタジオへ入って行く。



スタジオではすでにハナがギターの速弾きを披露していた。

それに負けじとパクがベースで対抗する。

チョッパーで食い下がるがライトハンドを駆使したピック弾きには歯が立たない。地面には電動ドリルが転がっている。


リコ「ハイネはハナ部長に速弾きの特訓だよね?」


ハイネ「そうなんだけど……あそこまでやれなくてもいいかなぁ……。」


ハナはヘドバンしながらのピックスクラッチ、そして背面弾きをし始める。


リコ「ユリちゃんは今日は何やるの?」


ユリ「オリジナルのベースラインのアレンジをパク先輩に見てもらおうと思ってて……」


ユリ「リコちゃんは?」


リコ「マリちゃんと一緒に、ナッツ先輩からモーラー奏法叩き込んでもらう約束したんだけど……」


ハナ部長とパク先輩が2人で競っているかのように見える速弾きバトルだが、そもそも面白がって煽って火をつけたのはドラムのナッツ先輩だった。


マリ「また始まっちゃってる?」


全員の分の楽譜とドラムスティックを抱えて準備していたマリは、わざと派手に転び、全てを落として見せた。


それに気づいたパクが弾くのをやめ、拾うのを手伝う。


ベースがいなくなりやっと気づいた2人が演奏をやめる。


速弾き対決といえど、結局はハナの持ちネタが全て出し尽くされて、満足するまで続くため、マリが手をうったのだった。


ハナやナツは演奏中は周りのことが全て都合よく見えるため、周りのギャラリーは全て自分たちに見惚れているファンのように見えてしまうのだ。


パク「大丈夫だった?マリちゃん」


マリ「パク先輩、ありがとうございます。」


パク「あ、そうか、ユリちゃん約束の時間だね。アレンジ見ようか。」



ハイネはハナ部長に速弾きの極意を


リコとマリはナッツからモーラー奏法のウンチクから始まるリズムの基礎練習を


ユリはオリジナル曲のアレンジをバンドメンバーと共にパクに指南を仰ぐのであった。



合宿1日目の夜は更けていく。


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