第2話 真夏の海の女たち



潮の香り 

肉が焦げる匂い 

隣に座るサクラ先生の香気


今日の先生の香りは、いつもと同じ香水と海用のSPFが高そうな日焼け止めの匂い。


あ……先生のタバコの匂いいつもと違うし、きっと昨日ワイン飲んでる……


チップさんと一緒に来たってことは、昨日泊まってったのかな……


なんて、詮索し過ぎか……。


暑く焼けた鉄板に、ジュッと注がれる焼きそばソースの音に、青のりと鰹節の袋を力強く握りしめてしまっていたリコは変な妄想をするのをやめた。


その焼きそばを焼いているのはユリ。


額に汗を滲ませながら両手に大きなヘラを持って麺を持ち上げるが、どうにも麺にソースが絡まない。お好み焼きのように麺がひっくり返るだけだ。


ユリはソースがこげ始める音が始まる前に何としても麺に均等にソースを纏わせんと集中していた。


サクラ「あれ?もやしっていつ入れるの?」


ユリの横でマリが花束のように大事に抱えるもやしを見てサクラ先生が気づく。


ユリ マリ「「あっ」」


ユリとマリの声がハモった。


サクラ「大丈夫よ、焼きそばが終わったらサッと塩胡椒で炒めてトッピングしちゃえば。案外そっちのが見た目が綺麗かもよ?」


急いでもやしを投入しようとしたマリの手を優しく制して、ふふっと笑うサクラの薬指には見たことのない指輪が光っていた。


ユリ「あれ、先生その指輪……」


サクラ「あぁ、これ?男避け。変な虫が寄ってこないようにね。案外きくわよ?」


本当は昨日チップさんからもらったものなんじゃないかなと、リコはまた妄想が止まらなかった。


ユリ「私もそんなこと言ってみたいですぅ。」


サクラ「ほら、ユリちゃん、手が止まってる!」


早速焦げだしたソースがさらに香ばしい。


マリは先生の手元の指輪を見つめ、それがいつ誰からもらってどんな意味を持っているものかを知っていた。


だけど言ったところで自分にはなんの得にもならない。この場にいる誰にも。こういうところで知らないふりするのが大人なんだろうなと思いながら、もやしの袋をちょっと回したりして喋りたいのをグッとこらえた。


サクラ「よし、バトンタッチね、ユリちゃんチップさんのところからソースダッシュでもらってきて!」


火力のせいか日差しのせいか、ソースがみるみる蒸発してしまったので見兼ねたサクラ先生が指示を出す。


砂浜に足をとられ、ビーチサンダルを取られ、なかなか辿りつなないユリを3人で笑った。


ソースを持って帰ってくる頃には、もやしのソテーも出来上がり、傍に避難していた麺たちと合流して、見事に美味しそうな焼きそばに整った。


パク「さすがサクラ先生ですね。」


パクが飲み物を持ってやってきた。


サクラ「キンキンに冷えてるやつ持ってきた?よしよし、わかってるわね、さすが金髪君。」


サクラに水滴がしたたるビールを渡す。


パク「ほら、みんなも。」


見た目に似合わず、腰が低く、周りを見ながら動き回るパク先輩。今朝もお風呂入ってから来たんだなぁ……


リコはパクが風呂好きで暇さえあれば入浴していることを知っていた。そして、いつもと同じシャンプーの匂いに安心していた。


パク「ユリちゃん、なんか頑張ってたね。一人でパシリにされて。」


ユリ「あ、やっぱりみてました?私がソース蒸発させちゃったんで、仕方ないんです……」


パクはユリの頭をポンポンとして、他の部員たちにも飲み物を配る。


マリ「あぁいうところが、ずるいよねぇ。」


ユリ「パク先輩彼女いるのに、気をつけて欲しいですよね。」


プシュッと開けてひと口ふた口。

ユリとマリは飲み始める。


リコ「あれ、乾杯は?」


リコに言われて二人は顔を見合わせる。


サクラ「リコちゃんだって、この私だってまだ我慢してたのに〜!ねぇ!あとで罰ゲーム決定だわ!」


サクラ先生が悪戯に笑う。


「よーーーし!!乾杯するぞー!!軽音部、スキー部!今回は部の垣根を越えたチーム対抗での合宿だ!優勝チームには、夕食にカニと伊勢海老の鉄板焼きをつける!がんばるよーに!!」


『ウォーーー!!』


チップの言葉に士気が上がる。


ヒデ ハナ「「乾杯!!」」


スキー部部長ヒデと軽音部部長ハナの乾杯の合図とともに楽しいBBQがスタートした。

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