第6話
締め付けられている天音の顔色が朱色へと変わっていく。その額に玉のような汗が吹き出してきた。
……なんて事は全くなかった。そうなるどころか、にやにやと美しい顔に似合わない下品な笑みを浮かべていた。
軽くとんっと地面を蹴るとそのまま後方へと一回転した。その勢いで首を掴んでいた手が離れたが、まだ腕は掴まれている。
「ふん……舐めんじゃねぇよ?このエテ公風情が」
そう言うと天音は掴まれている腕から数珠丸を離したのだ。数珠丸が天音の手から離れ、地面へと落ちていく。
妖魔はまた天音の首を掴もうと手を伸ばす。
数珠丸の鋒が地面へと突き刺さるかと思われた。しかし、天音の腕に絡みつけられていた数珠のお陰で数珠丸は地面へと着かず、ぶらんと腕からぶら下がった状態になった。
数珠丸の柄を器用に足でくるりと回し、そのまま突き上げる様に蹴りあげると妖魔の腕を貫く。
一瞬、妖魔の腕の力が緩んだ。
その隙を見逃すはずがない天音は、思いっきり捕まえられていた腕を引き抜いた。
そして、引き抜かれた手でしっかりと数珠丸を握りしめると、どんっと地面を踏み鳴らし、妖魔の懐へと飛び込んだ。
妖魔の胸から生えている腕が、今度は天音の首を貫こうと手刀を放ってきた。それを半身で避ける天音。
僅かな月明かりを受けた数珠丸がきらりと光ったかと思った瞬間、妖魔の体が横一文字に斬られていた。
その分かれた体の隙間にきらりと光る
射抜かれた魂玉が砕け散り消えたと同時に、妖魔の体も塵芥の様にさらさらと風に飛ばされ散っていった。
ぱちりと鞘へ数珠丸を納めた天音の耳に、野太い咆哮が聞こえてくる。
天音が視線を向けた先には、テナガザルの妖魔の二倍はあろうかと言うような大きく筋肉隆々としたゴリラの様な妖魔が自身の胸をドラミングしている姿があった。
「……テナガザルにゴリラだぁ?ここは動物園かよ?」
そのゴリラの姿をした妖魔の前にふんわりとした微笑みを浮かべた弥生が立っている。妖魔の咆哮でその二つ結びの髪が揺れていた。それでも全く動じる事のない弥生は肩に大斧を担ぐ様に持ち、ただ微笑んで妖魔を見ている。
「ゴリラ対ゴリラ……だな」
ぼそりと呟く天音。その呟きに弥生の耳がぴくりと動く。
「誰がゴリラよ?」
「……お前、聞こえたのか?馬鹿力だけじゃなくて、地獄耳だな」
「馬鹿力?私はか弱い女子高生よ?」
「か弱い女子高生がそんなでかい斧を振り回すかよ?見た目は女子、中身はゴリラだろ?」
「……なに、あなた?喧嘩売ってるの、買うわよ?」
妖魔をそっちのけで言い争いを始めた二人の足元に数本の矢が刺さる。そのうちの一本に文が巻き付けられていた。
それを解き目を通す天音。目を通した天音がそっと文を弥生へと渡した。文を読み終わった弥生はこくりと頷くと改めて妖魔の方へと向き直る。天音も弥生から離れその戦いを見守る事にした。
弥生の手からはらりと落ちる文。その内容がちらりと見える。
「早くやれ。やらんとその後頭部貫くぞ?」
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