第5話
ぐじょぐじよと涎まみれの耳まで裂けた口を大きく開き、鼓膜が破れそうな程の甲高い声で威嚇する猿型の妖魔。普通の人間であれば耳を押さえ、腰を抜かしてしまうであろう迫力。しかし、天音はそれに全く動じる様子もなく、一気に間合いを詰めると構えていた刀を斜め下へと斬った。
真っ二つに分かれた妖魔の胴体。そこにきらりと光る魂玉が見えた。その瞬間、弓を構えていた優姫が矢を放つ。
ひゅんっ!!
矢が小さな小さな魂玉を貫くと、貫かれた魂玉は砕け散り霧散していく。
見事な連携である。
「あと三体……」
にこりともせず次の妖魔の方へと振り返る天音。
ぶぉんっ!!
豪快な音と共に、弥生の振るう大斧の風圧で天音の長い髪がふわりと靡く。天音の目の前で右半身と左半身が見事に分かれた妖魔の姿があった。
その左右に分かれ倒れていく妖魔の後ろから、にたりとした笑みを浮かべる弥生がいた。その弥生の横を優姫の放った矢が通る。
ばちりという小さな音を立て砕け散る魂玉。
ゆらゆらと水蒸気の様にゆらめきながら、大気の中へと消えていく。
「あと……二体よ♡」
かちりと数珠丸を先程と同じ様に顔の高さに構える天音と、大斧を軽々と操り振り回す弥生。その大斧の巻き起こす風に二人のスカートの裾がひらりひらりと舞い上がっている。
「二人ともぉ、パンツ……見えちゃうよ……」
離れた所から弓を構える優姫が小さな声で呟いた。しかし、そんな小さな声で二人に聞こえるはずもない。
「うぜぇぞ、弥生。てめぇ、そのままヘリコプターみたいに飛んで行っちまえよ?」
「あらあら……あなたこそ何かに捕まってなきゃ飛んで行っちゃうんじゃない?そこら辺の葉っぱみたいに?」
二人はぎろりと互いを一瞥すると、それぞれが妖魔の方へと向かっていく。
天音が対峙している妖魔は、普通の人間の腕の二倍以上はある長い腕をしたテナガザルの様な姿。その妖魔がだらりと垂らしていた腕を天音の方へと伸ばしてきた。のそっとした緩慢な動き。
「そんなんで、私を捕まえられっかよっ!!」
難なく伸びてきた腕を刀で横に払い斬り落とし、妖魔の懐へと入った時である。
突然、妖魔の胸元からにょきりと腕が生えてきたのだ。その腕が天音の首を掴むと同時に、もう片方の腕がまるで蛸の足の様にぐにゃりぐにゃりと、数珠丸を握る腕に絡みついてきた。
天音の首を妖魔の手がぎりぎりと握り締める。刀を振るおうにも妖魔の腕が絡みつき動かす事ができない。
次第に苦悶の表情へと変わる天音。
ゆらめき優姫が矢で援護しようとするが、天音が盾になる様に妖魔の体を隠してしまっていた。
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