第10話
「おいっ、
「……そんな事出来るわけないじゃない」
ガタンゴトンと揺られている。
「やめなさいな、天音。優姫に八つ当たりしてもしょうがないでしょう?」
「そうじゃそうじゃ、天音はすぐに怒る、怒りん坊じゃ。修練が足りん足りん」
調子に乗って天音へ苦言を吐く若鷹丸。
すると突然、襟首を掴まれぐいっと物凄い力で引っ張られた。
後ろから引っ張られ、ぐえっと首が締まり若鷹丸が苦しそうにもがいている。天音が鬼の形相でその襟首を何度も何度も揺さぶり締めているのだ。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ……やめてあげてよ」
がくがくと頭を前後に揺らし、鬼灯のように真っ赤になっている顔の若鷹丸とそれを気が狂ったかのように掴み揺する天音の間に、見かねた優姫が止めに入った。
「邪魔すんじゃねぇっ!!こいつに立場っつうもんを教えとくんだよっ!!」
ガタンッ!!
四人の乗る車が大きく揺れた。体勢を大きく崩す天音達。しかし、そのお陰で若鷹丸を掴んでいた天音の手が外れた。
ひゅぅひゅぅと息を吸い込んでいる若鷹丸に、優姫から押さえつけられていなければ、再度、掴みかかろうとしている天音。
そんな三人を見て大きなため息を一つつく茨木へ、前方よりお花が声を掛けてきた。
「そろそろ、一つ目の休憩地点に到着しますが……どうします?皆さん、とてもお元気そうなのでこのまま通過しますか?」
やんわりとだが、嫌味たっぷりな言葉に、茨木は苦笑するしかなかった。
「お花ちゃん、そんな事言わずに、休憩しましょうよ」
「わかりました。お姉様がそういうのならば、少し休みましょう」
ゆっくりと速度が落ちていくのが分かる。そして、ぴたりと止まった。窓から外を除くが、真っ暗な闇があるだけで、灯りの一つも見えない。
一同が外に出ると辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ、自動販売機すらない場所であった。
よく目を凝らして見ると深い闇の向こうに、小さな古びた鳥居が見える。老朽化しているのか斜めに傾いている。
がらがらとお花の操る車、否、車ではない、その二頭の大きな獅子のような違うような動物が引くキャリッジ型の馬車のような乗り物。
「
お花がその二頭の大きな動物の頭を撫でている。
大きな体躯に頭部にはふさふさとした
天音達の乗る馬車を引くのは馬ではなく、二頭の唐獅子だった。
その厳つい二頭の唐獅子が、お花に撫でられ猫のようにごろごろと喉を鳴らしている。
「……相変わらずお花にはべったり慣れてるな」
そんな一人と二頭の姿を眺めていた天音。
すると傾いた鳥居から何やらぶつぶつと声が聞こえてきた。
耳を済まさねば聞き取れない小さな声。
天音達四人は声の聞こえてくる鳥居の方へと歩み寄ると、その奥に小さな社の、これまた朽ちかけ傾いた姿が見えた。
どうやら、その声は社の中から聞こえて来るようである。
「おい、若鷹丸……てめぇ、ちょっとひとっ走り見て来いよ?」
どんっと若鷹丸の背中を押す。その反動で体勢を崩し二三歩前へとよろめき、鳥居の中へと踏み込んでしまった。
その瞬間である。
社の方からしゅるりと何かが飛び出して来たかと思うと、若鷹丸の四肢に絡みつき、引き摺り込まれていくではないか。
さすがに驚いた天音が数珠丸恒次を鞘から抜くと、慌ててその触手のようなものを斬りつけた。
むにゅりとした感触。
しかし、その触手をすぱりと斬り、若鷹丸が解放され尻餅をつき、ごろんと地面へと転がった。
尻餅をついた姿勢で後ずさりし、天音達の所へと帰ってきた若鷹丸。その顔は青ざめ、今にも泣きそうになっていた。
「最近の子は乱暴だねぇ……」
社の中から、また声が聞こえてくる。喋り方は年寄りじみているが、声質は若い。
がくがくと震えながら天音の太腿にしがみつく若鷹丸を必死で押し剥がそうとしている天音。
「誰だ、てめぇ?」
太腿にしがみつく若鷹丸を剥がしつつ、天音は社の方に向かって鋭い視線を送る。
茨木と優姫が、いつの間にか大斧と弓を手に持っていた。いつでも応戦出来るようにしているのだ。
「ふふんっ……礼儀も知らぬ小娘達が、一丁前に構えるか……」
ぐらりと地面が揺れた。
一度ではなく、二度三度。
「これは大変失礼しました。私は大江山は酒呑童子の一の子分、茨木童子と申します。良ければあなたのお名前を教えて頂けませんか?」
深々と社に向かい頭を下げる茨木。その額には二本の角がにょきりと生えている。仮の姿ではなく本性を見せる。隠し事はしない。
茨木なりの誠意を示したのである。
同じように優希も普段のセーラー服ではなく、いつの間にか着物姿となり、短かった髪も艶やかな長い黒髪に、子供らしかったその面影は消え、妖艶な大人の女性へと変わっていた。
「私は
「ちっ……私は
三人がそれぞれに自己紹介をした。
「我は……高良山は筑後坊に仕える鴉天狗の若鷹丸……」
天音の太腿から離れ、何とか立ち上がった若鷹丸も続いた。だが足が震えているのは隠せない。
「ほほほ……ぬしらが豊前坊の所から来た娘ご達か……われの名は、おとろし。おとろしよ」
ぶわりっと社の方から突風が吹いてきた。
立っているのがやっとの勢いである。
その突風が止むと、いつの間にか四人の目の前に一人の女が立っていた。
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