第3話
お団子ががぶりと齧られたような月が浮かぶ夜。その僅かな月明かりの元、街灯さえない薄暗い路地に浮かぶは影三つ。
そう……天音、弥生、優姫の三人である。
「全く妖魔の気配すら感じんが……本当にここに妖魔が現れるのか?」
「うん……目撃されたのはいずれも子の正刻を少し回ったくらいだから……」
懐中時計を取り出した優姫が時刻を確認する。まだ子の正刻まであと少しある。しかし、この現代にうら若き少女が懐中時計、しかも、その時計は普通の十二の数字を記してある時計でなく、
かちり……
懐中時計の針が子の正刻をさした。
「子の正刻よ……みんな」
優姫の言葉に天音と弥生が互いに顔を見て頷き合った。
ぱちり……
数珠丸恒次の鯉口を切る天音。そして、弥生の手にはいつの間にかその身に余る程の大きさを持つ大斧。斧の刃の部分だけで、百六十五センチある弥生の上半身よりも大きい。それをいとも軽々と扱う弥生。
「さぁ……出てらっしゃい」
ぎらりと弥生の目が赤く光る。その可愛らしい顔に似つかわしくないにたりとした笑みが張り付いている。
「そんな怖ぇえ顔で待ち構えられっと、さすがの妖魔も逃げちまうぞ?」
「……なんですって?あなた、ご自分の顔を鏡で見た事ありまして?あなたこそ、妖魔が尻尾を巻いて逃げてしまうような顔をしていますわよ?」
こんな所でも喧嘩を始めようとする二人。ぎりぎりと歯を軋ませながら睨み合う。まるで闘犬が相手を目の前にし、その手網を離されるのを今か今かと待っている姿が想像できる。
「やめてよぉ……二人とも……いつもいつも……」
しゅんっ!!
顔と顔が引っ付くほどに近づき睨み合う天音と弥生の顔の間を、風を切る音と共に何かが走り抜けていった。
ばっと優姫の方へと顔を向ける二人の視線の先に弓を構える優姫の姿がある。
言葉で言っても分からない二人に堪忍袋の尾が切れた優姫が矢を放ったのだ。
さっと血の気が引くのを感じた二人に涙目でぷるぷると震えながら睨む優姫。
「早く仲直りしてよ……二人とも」
泣くと人が変わったように強くなる子供が時々いるが、優姫もそのタイプであろう。腰にに掛けてある
「……分かった、仲直りするから」
「そ、そうよ、優姫。私たち仲良しなんだから」
引きつった笑顔で慌てて互いに手を取り合い握手する二人。それを見た優姫の目は疑心に満ち溢れている。
「ほ、ほら……」
「ねぇ……仲良しでしょ?」
とうとう二人して抱き合い、これ以上ないと言うくらいに頬を擦り寄せあっている。優姫はにこりと微笑むと矢を弦から外し箙に戻した。その瞬間、二人がさっと体を押しのけるようにして離れた。しかし、その二人の仕草を見た優姫がまた、腰の箙に手を伸ばす。
そして矢を弦に宛てがうと、躊躇せずに弦を引き矢を放った。
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