小説のテストの小説
@nagatani_en
第1話 小説のテストの小説
「ここにエピソードを書くみたいだよ」
「なるほどね……」
文体が少しおしゃれに見える。游明朝体だろうか。まるで小説みたいだ。こんなに簡単に小説を書くことができて、スマホで読むこともできるなんて……しかも、広告で収益が得られる可能性もあるらしい。なんてすばらしいことなんだ。夢がある。夢しかない。
僕の隣でスマホを操作している加賀さんは瞳を輝かせ、食い入るように画面を見つめていた。わが文芸部の部長を務める彼女は、小説が大好きだ。書くのも読むのも大好きな彼女だが、いままでは紙の本でなければ……と、電子の媒体に手を出すことをためらっていた。
とくに、個人サイトやフリーサイトではなく、広告料などの収益につながるサイトというのは、いままでの彼女の感覚からすると異次元すぎるようで、触るのをためらっているようだった。
そこで僕は、彼女の偏見をなくすため、一緒にアカウントを作ってログインしてあげることにした。最初こそ抵抗があったものの、アカウント情報を登録するやいなや、彼女の目の色が変わり始めた。
「でも…テストって言われても何をしたらいいのかわからないわ」
そう言ってつらつらと適当な文字を打っている彼女の表情は、とても楽しそうに見えた。
「まぁテストなんだから、そこまで気負わずに、好きなことをすればいいんじゃない?」
僕がそういうと、加賀さんの眉がすこし下がった。
「なんでもいいっていうのが一番困るのよね……」
夕飯に迷ってるときのお母さんのようなことを言い始めた。まだオチというほどのものはないし、物語はこれから展開していきそうではある。しかしテストの文章なので、とりあえずこのくらいでいいのではないだろうか。
「ここでプレビューを観れるよ」
ぼくは、画面したのプレビューボタンを指さした。
「なるほど……で、最後に、この右上の保存とか公開とか押せばいいのね」
「たぶん読んでる側には表示されてないからこの部分は書いて投稿したことある人しかわからないかもしれないけどね」
「ふーん……あ、時間も設定できるんだ。まぁいまはいいか」
加賀さんは、そのまま右上にある青色のボタンを押した。
小説のテストの小説 @nagatani_en
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