第5話 おかしさを増す現実
三人目は一人目と同じ無職の引き籠りだった。
名前は坂本雄二。殆ど同じなので説明は省く。
四人目は二人目と同じ、犯罪グループの幹部の男だ。
本名田中史郎。詳しく言えば詐欺集団の頭だ。
何れもこの町にいるに違いない。
上司に伝えてはおいたが、望みは薄い。
「坂本はともかく、田中の方は見つかりますかね?」
「現段階では何とも言えないけど……限界までやるわよ」
「了解です‼」
息を切らしながら、途切れ途切れで会話をするのは、流石に疲れるものだ。
暫く疾走すると目的地一つ目が視界に入った。
呼び鈴を鳴らしてみる。
今はインターフォンと言うのだったか。
下らないことが頭の片隅に浮かびながら、名乗りと事情説明を終えた。
「……という訳でして」
「は、はあ……」
坂本の母に説明をして、理解を求めたが、案の定戸惑いを隠せない様子だった。
要領を得ない説明だっただろうか。
事態が事態なだけに、驚くのも無理はないと思うのだが。
「大丈夫、ですかね……?」
青樹が心配そうに私に耳打ちする。
聞かれたところで私には返答が見当たらない。
「雄二は二階に居ますけど……」
「そう、ですか……話を聞いておきたいのですが」
「でもあの子、初対面の人とは話せないと思うわ」
これまた厄介な。データに目を通した時に想定はしていたが、気長にやるしかなさそうだ。
決心がついたその時だ。
上の階から何かが割れる音、その数秒後に倒れる音が聞こえた。
「え⁉」
「上からですよ!」
「雄二、雄二‼」
返答はない。ただ面倒くさかっただけだと信じたい。
母を先頭に上層階へ駆け上がった。
戸を強く叩く。それはもう、拳で突き破るほどに。
「雄二‼返事をして!」
鍵がかかっている。
この場合選択肢は一つしかない。
「青樹!」
「任せてください!」
二人でいつも合わない息を揃え、障害物を破壊する。
だがその先はさらに絶望だった。
予告が現実になったのだから。
そう、頭から血を流して倒れている坂本雄二、その人である。
「なんで……」
精神的ショックが余程大きかったのか、母親も近くに突っ伏してしまった。
これは……銃弾だ。
恐らくは外からの狙撃。
急いで窓から外を確認するが、人影一つも見つからなかった。
「頭を一撃ですか……これは警察ですね」
冷静に諦めを露わにすると、携帯電話を取り出した。
後始末は他の人間に任せ、私たちはすぐに次の標的を探し回ることにした。
最初に目撃された犯人像は大柄の男。
あんな動画を撮るほどの残虐、若しくは無情な人間。
警察を挑発するかのような手紙を送りつけるほどの自信家らしい。
そして今回はかなりの狙撃の腕を見せた。
そんな奴が存在するのか?それ程の人物がどうしてこんな無意味そうな犯行を繰り返す?
あてもなく町を走り回りながら、必死に考えた。
その甲斐もなく、私の頭では名推理など端から無理のようだ。
「先輩、益々犯人の見当がつかなくなってきたんですけど~」
「私も同じ。混乱して目眩がしてきたわ……」
無駄な意見交換に割って入ったのは、一筋の銃声であった。
この近くだ。
町中で銃をぶっ放すとは中々肝が据わっている。
裏路地を一直線に走り、曲がり角を曲がると……
在ったものは言うまでもない。
そしてそれは正真正銘四人目田中だ。
今回は遠距離からではなく、対峙して打ったらしい。
それでも脳天を貫いているのは変わらないが。
さて……これで終わりだといいのだが……
意図が判明しない以上、予想するのも詮無き事だ。
もう日も傾き始めている。そんな中切羽詰まった私の脳に一つの仮説が浮かび上がった。
「青樹。犯人から送られた動画と手紙まだ持ってる?」
「はい……まだ提出してませんから……それがどうかしましたか?」
「もしかしたら……」
部屋に戻るなり引き出しから引っ張り出すようにあの悍ましい品をもう一度手に取る。
私の推理が正しければ、証拠まではいかなくとも決定打になる。
ズキズキと蝕まれる感情を抑えながら、その画面から目を離さなかった。
確信を得た私は携帯電話を取り出し、電話を繋ぐ。
「犯人が分かったわ」
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