第4話 痛ましい記録

——そう意気込んだのは良かったのだが……

 運が悪いのか、今日はまた一段と寒い。関節が固まりそうになりながら、ブリキ人形は不格好に歩いていく。

「先輩~寒いです」

「そんなこと言われなくても分かってるわよ」

 私たちが無様にガタガタと歯を揺らしていると、ポケットの携帯電話が振動する。


「はい、もしもし」

『一旦戻れ、話がある』

「了解しました」

 簡潔な業務連絡を終えると、すぐに電源を切り、手をポケットに突っ込む。

「偉い人からですか?」

「ええ。招集をかけられたわ」

「ということは……」

「また事件ね」

 

 同調したか、一斉に白い溜息を吐くと、踵を返して憂鬱を露わにする。

 まだこの事件に折り合いがついていないというのに、よくも次から次へと起こるものだ。

 不穏な予感をひしひしと感じながら、元いた場所への帰途に立った。




 やはり、というべきか。

 泣きっ面に蜂というほどでもないが、この頭痛がしそうな事態に畳みかけるが如く発生する事件に早くも嫌気がさしていた。

 今度は犯罪グループの一角、鍵原一が人気のない路地裏で死んでいるのが発見された。

 しかも一人目と全く接点もない、裏社会の人間だ。

 凶器は包丁だ。家庭用の。また腹を一刺し。

 鍵原のグループは主に強盗を専門としているらしい。

 そこで第一発見者でもある品川滝司、同じメンバーである秋本蓮太郎、菅井亭治に疑いがかかったということだ。

 勿論、皆口を揃えて否認、現在逃亡しているとされるその犯人が殺したのではないかと適当に言う。

 益々犯人が分からなくなる。作り上げようとしていた人物像も打ち砕かれ、どう探していいものやら。

 無差別殺人か?そもそも連続殺人なのか?


「先輩、間違いなく犯人は同じですよ」

「何故そう断言できる?」

「手口が同じだからですよ。人気のない路地、刃物での一突き、それに現場もそんなに離れていません。また、この事件は報道されていませんし、第一模倣犯が居ても、何かしら証拠が残る筈……」

「そう、そこなのよ」

「どこですか~?」

  

 何故そこでいきなりポンコツに戻る……

「犯人は何故証拠を残さないのか?」

「しかも、被害者は無職と非人道のかけ離れた人間……どう繋がるんでしょう?」

 これまでになく、頭を回転させている青樹を見直しながらも、事件を考え直してみる。


「刑事さーん!」

 無邪気な声が。

 かの少年探偵である。

 情報を持ってきたのだろうか。

 そう疑るような視線を向けていると、少年は何かを思い出したのか、手をポンと叩き懐から手紙用の封筒を取り出す。

「お届け物です」

「これは一体……?」

「警部さん宛に届いていたらしいですよ」

 だがその緩んだ顔はすぐに青褪めることになった。

 その中身を見て恥ずかしながら慄いたからだ。


『次も同じ手順、しかし方法を変えてみよう』

 

 本文はそれだけ。名前は無し。

「いったい誰がこんなことを……」

「こんなもの犯人じゃなくても出せる筈だわ」

 そんな強がりを言うと、それを予測していたかのように、メモリーカードが。

 

 その中に入っていた動画は……言葉が出なくなるものだった。

 悲鳴と鈍い音に塗れたそれを正確に聞き取ることはできなかった。

惨い。狂っている。

 それだけが脳を覆いつくした。

 込み上げてくる吐き気を堪えるのに必死だった。

「決定的ですね……」

 くっ……子供の前で吐きそうになるとは。

 これで何度目だ。


「先輩、この手紙の裏に!」

「裏?」

 この手紙に記された情報はそれだけではなかった。

 ご丁寧に次のターゲットまで。

 完全に舐められている。

 私は悔しさと憤りを押し殺し、その人物たちを探すことにした。

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