第3話 奇妙な事件と協力者
今日も私たちは闇雲に調べ続ける。
「そんなこんなで、目撃された場所を回ってみた訳ですけど~」
「手掛かりが無い、参ったわね」
ただ無力感、虚無感に打ちひしがれている私たちの所に見覚えのある姿が迫ってくる。
当然、犯人ではなく、寧ろその逆だろう。
「刑事さん、今日も調べているんですか?」
「ええ。君は何故ここに?」
「僕も協力できるかと思いまして」
「うーん……気持ちはありがたいけど」
「よし!協力してもらいましょう!」
「青樹⁉あなた正気?」
こんな子供を捜査に付きあわせるなんて……
いくら探偵だからって……
そもそも探偵っていうのも信じ難い。
「はい、頑張ります!」
あ、駄目だこれ。
今更その言葉を修正する勇気はなく、説得の論も立てず、口を結んだ。
本当に大丈夫なんだろうか、と心底不安になった。
未熟な相方のせいでまた事態がややこしくなってしまった。
現在私たちは、相原少年に告げられた住所に向かっている。
何もわからない以上、最早手段を選んではいられないが……
正直望みは薄い。警察が把握していないことを少年が知っているとは思えない。
そんな訳であまり期待はしないことにしておく。
冷酷だと思われるだろうが、間違った生き方ではない筈だ。
事実のみを見て判断し、効率や結果を重視して選択する。
これが人の言う賢さなのだと勝手に考えている。
「ここですかね?」
「ええ、ここで合ってる。それにしても……」
「——意外と大きいですね~」
私が言いかけたことを補足するように青樹が感嘆の声を漏らした。
暫くそれを見上げて眺め、簡素な階段へと足を進めた。
喉をごくりと鳴らし、ゆっくりと扉を開ける。
「あ、こんにちはー!」
矢張りあの少年である。嘘はついていなかったということか。
「こんにちは~まさかこんな所に住んでるなんて……」
掃除も行き届いていて、清潔にされている。つい最近誰かが来たのだろうか。
それにしても、こんな建物に一人で暮らしているとは信じられない。
様々なことに首を傾げている間に、長椅子に座るよう誘導された。
私は出された紅茶を啜り、カップを置いた。
そろそろ本題に入らなければ。
「それで……君が持っている情報を教えてくれる?」
「はい。まずはこれを見てください」
「これは地図ですか?」
「そうです。これは犯人を思われる人物の目撃された場所を書き込んだものです」
油性ペンでその印を指し示す。
「場所は殆ど住宅街周辺ね。一体何が目的なのかしら……」
「殺されたのは所謂ニートですよね?そもそも人間関係が有ったんでしょうか?」
青樹の発言は尤もだ。珍しくやる気があるようだが……
「そのニィト?とは何だ?」
「先輩、そこ聞きます?」
「え……何かまずいのか?」
「いいえ~つくづく先輩は世間知らずだと思いまして」
青樹が呆れるような嗤うような口調で喋る。
この無能男……子供の前でなければ殴りたい……!
「えーっと、簡単に説明しますと、学ばず働かずで暮らしている人のことですね」
「この世にそんな人間がいるのか⁉」
「先ぱーい。話が脱線してますよ~」
おっと、つい驚いて冷静さを欠いていたようだ。
声と興奮を押し殺し、再び席に着く。
「つまりはこの周辺を見回っていれば、いずれ犯人を……」
「えっと……この印は何?」
ふと住宅街から少し離れた座標に×印が付けられているのが目に入る。
「あ、これは間違えてしまったんです。油性だから消すことも出来なくて……」
意外と子供っぽい所もあるらしい。
「とにかく……!歩き回って情報を集めるわよ」
「え~また毎日ここを巡回するんですか~?」
「文句を言うな。それぐらいしか方法が無いの」
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