第6-4話 メリーさん④
室内で待っていたのは、声に違わぬ少女だった。
小学校高学年ほどだろうか。白地に紺の襟のついた制服。編みこまれた黒髪と、くるくると動く利発そうな瞳が印象的だ。
もっとも、その瞳は斜めにカットされた前髪のせいで片目しか見えなかったが。
部屋にいるのは、彼女だけのようだった。
「一人ですか?」
子供の聴取は、親が同伴するのが基本である。僕よりも詳しいであろう奥村さんに小声で問いかけると、彼も困ったような顔をした。
「お母さんは邪魔だから、あたしだけで来たの」
答えたのは少女自身だった。驚く僕らに微笑み、少女が椅子から立ち上がる。
「聖堂学園初等部、六年三組の光葉
告げられた学校名は、都内でもそこそこ名の通った一貫校のものだった。だからというわけではないが、どことなく彼女の雰囲気は浮世離れしているように感じる。
その視線は無邪気な分まっすぐで、少しだけ居心地が悪い。
目を逸らした僕に代わり、奥村さんが手前の椅子を引いた。
「それじゃ、光葉さん。君のおともだちのことを、おじさんたちに話してくれないかな」
「はぁい」
椅子に座りなおした光葉を面接するように、僕ら三人も席につく。
以下は、彼女が語った「メリーさん」についての話だ。
この噂の原型は、彼女らの通う学校にあった七不思議の一つだという。
昔、この小学校に通っている女の子がいた。
彼女はメリーという西洋人形をとても大事にしており、学校にも持っていくほど気に入っていたが、ある時それをからかわれ、クラスメイトに窓から捨てられてしまう。当時は窓の下に小さな池があり、レースやビーズなどの重い装飾で飾られていたメリーさんは、あっという間に沈んでしまった。
女の子はメリーさんを拾うために池に飛び込み、溺れ死んでしまう。
この出来事をうけて池は埋め立られたが、そこに沈んでいるはずのメリーさんは、終ぞ見つからなかった。
「池があった場所は、今は花壇になっているの。それで、その中に立って自分の携帯番号に電話をかける。普通は話し中になるか、留守番電話につながるでしょう。でも、この場所でかけるとメリーさんに繋がっちゃう――っていうのが、あたし達の学校に伝わる話」
子供らしからぬ、妙に澄ました話ぶりだった。
「メリーさんに繋がるとどうなる?」
先輩の確認に、光葉は微笑んだ。屈託のない笑みだった。
「知らない。あたしは試したことないから。でも、何か水音が聞こえるらしいよ」
「そうか」
「うん。それでね、次はみんなの間で流行っているお話の方」
光葉の大きな目が嬉しそうに細められる。
今のがメリーさんの話ではないのか。一体どういうことだ? と、確認する間もなかった。
彼女は三人の大人を順に見回し、最後に僕で視線を止める。
大きな目が、三日月のようにきゅうっと細まった。
「メリーさんはね、この話を聞いた人のところに来るんだよ」
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