第27話



「今日、ドラマがあるね」

 そう言ってリモコンを手に取った太郎ちゃんはソファに座ってテレビをつける。


 私はその隣に腰掛けて淹れたてのコーヒーを啜った。

 太郎ちゃんの分のコーヒーもあるけど、彼は猫舌だから少し冷めるまでテーブルに置いてある。


「んードラマってあんまり見ないんだよね……あ!このバラエティの方が面白いよ、絶対!!これ見よう?お願い!」


 ドラマの気分じゃなかった私は、リモコンを奪ってチャンネルを変える。すると私が好きな番組が流れていたから太郎ちゃんにおねだり。

 リモコンを返す気なんてさらさらなかったからさっと後ろ手で隠した。


「もう……しょうがないなあ」


 微笑んで許してくれる太郎ちゃんに甘える大の大人。

 普段はこんなわがままな女じゃないんだけど、太郎ちゃんには不思議と気も使わなくてありのままの自分でいられるから楽だ。


「ドラマみたいな恋愛しておいて、ドラマ嫌いなんだね?」


「それはお互い様でしょ!」


 可愛い顔をしてそんな嫌味を放つ彼に、私は口を尖らせた。


 ドラマは続きものだから、と怒りながらも優しい私は録画だけはしてあげて。


「ありがと!あ、でも見たくないなら見なくてもいいよ?」


 自分で無理矢理チャンネルを変えたくせに、そう言ってもう一度コーヒーを口にする私。

 だけどそんな私に文句ひとつ言わない。むしろにっこり笑えるこの子は天使かもしれない。


「俺も、沙紀ちゃんの好きなものは知りたいじゃん。好きな人の好きなものは俺も好きでいたいよ」


 甘いセリフを突然ぶっ込んでくるから口に含んだコーヒーを吹きだしそうになった。


「大丈夫!?」


 慌ててティッシュを手にとって差し出してくれる太郎ちゃん。

 とりあえず口を押さえて事なきを得た。


 幸いにも、年下の男の子の前で粗相をしてしまうのは免れたけど……女としてどうなんだ、これは。


「可愛いね、沙紀ちゃん」


 こんな私にそう言ってのけるなんて今時の高校生は末恐ろしい。


 そんなことを考えながら、私は優しく髪を梳く太郎ちゃんの手に、無意識のうちに擦り寄っていた。




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