第22話


 ショッピングモールに着いて太郎ちゃんの服を物色する。


「これ、可愛いね」

 ほら、と私に見せてくれたのは真っ黒な無地のシャツ。たしかに太郎ちゃんに似合いそうだ。


 だけど私の視線を釘付けにしたのは、その隣の棚に並んでいたTシャツだった。


「これ!太郎ちゃんだ!!」


 プリントされているのは、太郎ちゃんに例えたことのある、スムースコートチワワの写真。


「……え、俺?」

 怪訝そうにする太郎ちゃんだけど、この運命的な出会いに私のテンションは高まる。


「そう!ずっと似てるなって思ってたんだ」

 そのTシャツを広げて彼の横に掲げ、見比べてみれば太郎ちゃんは複雑そうな顔をした。


「なんか、あんまり可愛くないね……?俺ミニチュアダックスとかの方が好きなんだけど……」

 と不満げに言われたけれど、それはダメだと私は答える。


「ミニチュアダックスは椎名くんだもん」


 そう言い切ってしまえば彼は途端に不機嫌な顔をした。


「沙紀ちゃん、ひどい」


 頬まで膨らませて、なんでそんなに拗ねているのか。

 首を捻りながらTシャツを畳み直す。

「んー、でも私はこっちのが好きだけどな」


 Tシャツの犬を指さして何気なく呟けば、ぶすっとしていた太郎ちゃんがぽかんとした後、口元を緩めた。


「そっかそっか……。俺の勝ちだ」

 一体椎名くんに何の対抗心を持っているのかわからないけど、満足そうにしているからよしとしよう。


「これ、部屋着にする?」

 私の持っていたTシャツをさっと取って聞いてくる。

 おしゃれ着にしようとは言わないところが正直だな。


「うん、好きにしたら?」


「……沙紀ちゃんも、着ようよ」


 そう言って、色違いの白を手に取ると太郎ちゃんはスタスタとレジへ向かう。


「え、待ってじゃあ払うよ」

 財布を出そうとすると手で制された。

 年上のプライドなんてものも、その優しい笑みに溶けていく。


「ちょっとぐらい、甘えてよ」

 太郎ちゃんにそう言われたら、何も言い返せなかった。

 彼にも男としてのプライドがあるのかな。


 私ははじめから、甘えてばかりなのに。


「……ありがとう」


 素直にお礼を言うとよし、と小さく頷く可愛い男の子。


「どういたしまして」



 ……本当に、太郎ちゃんには感謝しかないよ。


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