第21話
朝起きて、まず顔を洗う。
簡単な朝ごはんを作り終わる頃に彼は起きてくる。
「……おはよう」
まだ全開じゃない目を擦りながら、リビングに入ってくる太郎ちゃん。
……これが一日の始まり。
今日は土曜日で、仕事も学校も休みな私たちはいつもより2時間ほど遅い朝を迎えている。
休日はバイトに行くことも多いらしい太郎ちゃんも今日は休みのようだ。
「──ねえ、沙紀ちゃん。今日、買い物に付き合ってくれない?」
朝ごはんを頬張りながら告げる太郎ちゃん。
特にすることもないからすぐに了承すれば、嬉しそうにほほ笑んだ彼につられて笑う。
「オシャレしてね」
期待を込めた目で見てくるから、べっと舌を出した。
「生意気」
私の大人気ない行動に、太郎ちゃんはくくく……と笑う。
「あ……じゃあ、前のマンションに荷物を取りに行きたい」
「いいよ──っていうか、俺がいないときに前の家になんて行ったらダメだよ?」
もう既に何度も荷物を取りに行ったことはあるのに、そう念押されて不思議に思いながらも頷いた。
今、私の荷物は寝室のクローゼットに入れさせてもらっている。
そこからグレーのニットワンピースを出して着替えれば、いつもより可愛げのあるメイクをして髪も巻いてみる。
高校生である太郎ちゃんの隣で歩いても恥ずかしくないように……少しでも、若作りをしたかった。
──なんて、まるで恋する乙女みたいな自分に笑ってしまう。
準備ができて寝室のドアを開けると、ちょうど太郎ちゃんが目の前にいてぶつかりそうになった。
「ごめんっ」
そう言って彼を見上げたら、顔を真っ赤にした太郎ちゃんの姿が目に入る。
「それ、やばい」
「……何が?」
「可愛い。可愛すぎて、嫉妬する」
顔を赤くして照れているくせに、そんな口説き文句は平気で口に出す。
「馬鹿じゃないの……」
こっちが恥ずかしくてそっぽを向く。
どちらの方が赤面しているかなんて、比べられなかった。
「だって、そんなに可愛い沙紀ちゃん……他の男に見せるなんてもったいない」
出かけるのやめようかな、なんて言い出すから「はやく行くよ」と急かして──太郎ちゃんの脇をすり抜け、リビングへ戻ったのだった。
「行こうか」
ソファーでしばらく寛いでいると、準備ができた太郎ちゃんがやってきた。
紺のタートルネックとジーンズというシンプルなスタイル。普段はかけていないオシャレなメガネに大人っぽさを感じる。
玄関で黒のスニーカーを履いた彼は、私がショートブーツを履き終わるのを待ってくれた。
「行こう」
手を差し出されて、何も考えずに自分の手を乗せるとぎゅっと握られて指を絡める太郎ちゃん。
「ちょっと、手……っ!」
抗議しようと声を上げるが、年上の女を転がすのが上手いこの男は懇願するような瞳で覗き込む。
「嫌じゃないならこのまま」
嫌だなんて言えるわけもない私に確信犯の彼はニヤッと笑った。
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