第20話

 振り返ってみれば、慎二さんとはち合わせた時よりも──ずっと不機嫌な表情をした太郎ちゃん。


「沙紀、一緒に住んでるのってこいつ?」


 そう言った椎名くんは怪訝そうな顔をする。


「ものすごい、若くない?っていうか子ども──」


 彼の言いかけた言葉に、眠気なんて吹っ飛んで動揺してしまう。


「あー!!ありがとね、椎名くん。ここでいいから!」


 椎名くんにぎこちなく笑いかけて、終始無言だった太郎ちゃんの腕を引っ張るとその場を後にした。




 太郎ちゃんの部屋に着き、急激に酔いが回った私は玄関に座り込む。


「……沙紀ちゃん、酔ってるの?」


 やっと口を開いた太郎ちゃん。


 答える間もなく痛む頭を抱えていた私の腕を掴んで持ち上げると、靴を脱がせてリビングに半ば放り込まれる。


「たろーちゃん……?」


 酔いと眠気とで呂律が回らない。とろんとした目で彼を見上げれば、私を見下ろす太郎ちゃんが眉を寄せていた。


「酔うと、そんなになるの?」

 ムッとした彼が何を思うのか、私は知らない。


「だめじゃん。誰かに拾われちゃったら大変。首輪でもつけとこうか?」


 そんな物騒な言葉が聞こえて、私も何か言い返そうとする。

 だけどさらりと首筋を撫でる手がくすぐったくて身をよじった。


「……それが嫌なら、酔うの禁止ね」


 あの色気を含んだ顔をするから、コクコクと黙って頷く私。

 ──高校生の色気に負ける、なんて。大人としてどうなんだろう。



「……それで、あれは誰?」


 今度は拗ねたように頬を膨らませるから、可笑しくてぷっと吹き出してしまう。


「同期の椎名くん。たまに飲みに行ったりする友だちだよ」


 まるで彼氏にするかのような言い訳にも、納得のいかない太郎ちゃん。


「いくら同期でも近すぎない?」


 ヤキモチとも取れるその言葉に、今度は口をあんぐり開けてしまった。


「沙紀ちゃんが、俺のこと──好きになればいいのに」


 そんなバカみたいな冗談、聞いていられなくて。


「……この間まで、先生を想って泣いてたのは誰よ」


 誤魔化すように、笑って返した。

 太郎ちゃんの真剣な顔だって得意の見ないフリ。


 ──どうせ、〝先生”の代わりなんでしょ?


 そんな言葉を飲み込んだ。

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