第19話



「……もう、やめたの。彼と会うの」


 そう言えば、目を見開いて驚いていた。

「え……大丈夫なわけ?」


 さっきまで明るく話していた彼が、眉を下げて心配そうに私を覗きこむ。


「うん、意外と平気」

 淡々と答えてビールを流し込んだ。まだ少し、胸は痛いけれど。


「でもさ、向こうはお前の家知ってるんだろ?待ち伏せされたりしたらどうすんの」


 私のことは軽蔑しなかったけど、慎二さんに対しては少し不信感を抱いたらしいミニチュアダックスくんは──彼とすれ違うたびに牙をむいて威嚇している。


「マンションは、引っ越すつもり。今は知り合いのところに居候してる」


 さすがに「高校生に拾われた」なんて言えるはずもなかったから誤魔化した。


「……それって、男?」


 ビールの入ったグラスを見つめていた椎名くんが上目遣いで聞いてくるから、思わずビクッと体が跳ねる。


 そんな私を見て察した彼私の目を探るように覗き込んだ。

「ふーん……」


 特に何かを言うわけでもなく、不機嫌そうに唇を尖らせていた。




 そこからお酒のペースを速めた私は、帰る頃には足もとがおぼつかなくなるまでになっていた。


 ──そう、それはまるで慎二さんとの関係の始まりの時のように。


 あれ以来セーブしていたこともあり、ここまで酔っぱらうことなんてなかったのに。



「大丈夫かよ~」

 ふらふらと歩く私を嫌な顔一つせず支えてくれる椎名くん。


 子犬系男子なだけあって、太郎ちゃん同様小柄と言うか華奢と言うか……。


 お世辞にも体格がいいとは言えないけど、私を支える腕は逞しくて……そばで寄り添ってみれば私よりずっと背が高い。


「平気だから帰っていいよ~」

 そう言ってシッシッと帰りを促せば眉間に皺を刻んで「は?馬鹿なの?」なんて悪態をつく椎名くん。


「送るに決まってんだろ。こんな酔っ払い、1人で帰して及川さんの時みたいになったらどうすんの」


 そう言われてしまえば私は何も言い返せない。

 大人しく、送ってもらうことにした。



 私のマンションまでの道のりは知っている彼も、もちろん太郎ちゃんの家までは知らない。


 眠くて開かない目をこじ開けながら道案内する私。

 もうすぐ、居候するマンションが見えてくるころ──。


「──沙紀ちゃん?」


 後ろから、声を掛けられる。

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