私の居場所はどこにある?
第10話
目を覚ませば、隣には少年の寝顔があった。
抱きしめてくれている腕は、眠りに落ちる前とほとんど位置を変えていない。
ずっと、寄り添ってくれていた証拠だ。
「……ありがとう」
何故こんな見ず知らずの男子高校生に、バカな女の身の上話をしてしまったのかは自分でもわからない。
だけど気持ちが幾分、和らいだのは本当だ。
そっと呟くと、それに反応するかのようにもぞもぞと動きだす彼。
じっとその顔を見つめれば──目がゆっくりと開いていく。
「……おはよう、沙紀ちゃん」
まだすべて開ききっていない目が、優しく微笑んだ。
「おはよ」
挨拶を返せば、昨夜と同じように私の瞼に触れる。
「目、腫れてる……」
心配そうに撫でるから、またその瞳に魅了されそうになり慌てて起き上がった。
「──最悪」
洗面所の鏡で確認してみれば、酷く浮腫んだ顔がうつる。
今日も仕事だというのにこの顔で出勤しなければならないとは。
私はがっくりと項垂れた。
「大丈夫?」
洗面所の扉から覗きこんで様子を窺う太郎ちゃん。
はい、と手渡してくれたのは冷たい濡れタオルだった。
「冷やしたら少しはマシになるかな」
言われた通りにソファに座って目を冷やす。
「ねぇ沙紀ちゃん、今日は何時に帰ってくる?」
彼の言葉に、ごく自然に答えようとして止める。
「……いや、今日はちゃんと自分の家に帰るよ」
当たり前のように、ここへ「帰ってくる」ことを前提に話す太郎ちゃんだけど──私は一晩逃げ込む場所を作ってもらっていただけで、ここに住むつもりなんてない。
だけど、私の言葉に太郎ちゃんはここへきて初めて不機嫌そうな表情を見せた。
「ダメ。沙紀ちゃんは、ここに帰ってくるの」
強く言い聞かせるように私に告げる。
それでも、高校生の家に居候なんてできるわけもない。
拒否しようと口を開けば──。
「いいの?沙紀ちゃんの職場に行って『高校生にお持ち帰りされました』って言っても。下手したら捕まるかもよ?」
なんて脅されてしまえば何も言えない。口をパクパクと動かすだけだ。
知らなかったとはいえ、彼との間には何もなかったとはいえ──。
高校生にお持ち帰りされたと言われたら、あながち間違ってもいないのだし、勘違いされるに決まっている。
「このくそガキ……っ」
太郎ちゃんを睨みつけ、悪態をついた私にまたあの捨てられた子犬のようなズルい顔をした。
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