第7話
チャーハンをぺろりと平らげてしまった彼はソファーに身体を預けてうとうとしている。
洗い物を終えて戻ってきたころには目が半分くらいしか開いていなくて、彼の腕を引っ張ると
「布団で寝てきなよ、風邪ひくよ」
そう声をかける。
「ん……。沙紀ちゃんがベッドで寝て。俺はソファーで寝るから」
目を擦りながら寝室を指さす太郎ちゃん。
「ダメだよ、私は居候させてもらってる身なのに」
「ダメ。沙紀ちゃんは女の子なんだから」
断ろうとしても、頑なに譲らない。
もう「女の子」だなんて言われるような歳じゃない。そんな扱い、慣れていなくてどう返したらいいのかわからなかった。
「──じゃ、一緒に寝る?」
ソファーの背もたれに頭を乗せて、私を色気たっぷりの目で見てくる。
伏せ目がちなのは、眠いからだけじゃないと思う。
「え、いや、あの……」
情けないけど動揺を隠せない私を見て、くすっと笑ったかと思うとそっとこちらに手を伸ばす。
「沙紀ちゃんが嫌がることはしないって約束する。もし無理やりしようとしたら、警察呼んだっていいよ。だから、これはお願い。俺に背を向けても構わないから、ベッドで寝よう?」
その目にまた魅せられてしまって──無意識のうちに頷いてしまっていた。
ベッドに男の人と二人で入るのは初めてなんかじゃないし、慎二さんが来た時だって同じベッドで寝るのに──なんだか緊張して心臓がバクバクだった。
「……おいで」
先に横になった彼が私に呼び掛けて、布団をめくって待ってくれている。恐る恐るお邪魔すれば、まだ冷たいはずの布団が何故だかすごく温かく感じた。
「──なんで太郎ちゃんは一人暮らししてるの?」
二人でベッドに横になると、ふと疑問に思ったことを口に出す。
「うーんとね、一人暮らしを始めたのは今日からなんだ。今まで女の人と一緒に住んでたから。だけどそろそろ、けじめをつけないとなって思って親に頼んだ。今日、初めてここに来たんだよ。そしたら──沙紀ちゃんも拾っちゃった」
この生活感のない空間の謎が解けた。
ここで生活していないのだから、当たり前だ。
「女の人……って彼女?」
次々と出てくる質問に、太郎ちゃんは面倒臭がったりせずきちんと答えてくれる。
「んー、彼女ではないかなあ。お互いが癒しを求めたりだとか、欲を満たすために存在してる感じ?……まあ言っちゃえば“そーゆう”関係」
さっき私が直接的な表現を嫌がったからなのか、遠まわしに教えてくれる。
「うわぁ、すごいね……」
そう言ってみるけど、今の私と状況が似ていて内心すごく驚いている。
「……そ?でも沙紀ちゃんも似たような状況なんでしょ?押されたら断れなさそうな顔してる」
……バレてる。
私の表情は正直なのか、くすっと笑った太郎ちゃん。
「……デリカシーないね、君」
ぎろりと睨んでみるけど、この暗闇の中、意味なんて成さない。
「女の人の扱いには慣れてるはずなんだけどなあ……。特に年上の人には」
顔は見えないけど、その人を思い出しているのか──彼の声色は優しかった。
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