第6話
彼が私を思って取ってくれた行動だとわかったら、これ以上何かを言う気も失せた。
「……まああながち間違いでもないから別にいいよ」
むしろ、これがいい機会なのかもしれない。
彼との関係を終わらせようとした結果、私はここにいるのだから。
「──あの人、彼氏?」
「……だったら今私はものすごい最低な女だよね」
あ、そっか、と頷いて何かを考えるように手を顎にあてる。
「ん~、じゃああれだ。セフ──んぐ」
あまりにも直接的な表現に思わずそばにあったクッションを太郎ちゃんの口に押し付けた。
目をぱちぱちさせてクッションから逃れると、彼は眉を下げて悲しそうにする。
私の頭に伸びてきた手がそっと撫でた。
「そっか……」
こんな年下の男の子に頭を撫でられるなんて、今までの私では考えられなかった。
年下の男なんて、恋愛対象外だったから。
「……よし、ご飯作るからそれ食べたらもう寝よう?」
何かを悟った太郎ちゃんはそれ以上何も聞かずキッチンへ向かう。
お世話になる身なんだから、料理ぐらい私がしようと彼の後を追った。
「料理なら、少しはできるから。お礼にもならないけど、私にさせて?」
冷蔵庫を開けて中身を物色していた彼にそう伝えると、目をまん丸にさせる。
「……本当?」
と期待を込めた表情がむず痒くて、そんな大層なものはできないよ、と断っておいた。
彼が見ていた冷蔵庫の中を覗きこんでみれば──可もなく不可もなく。簡単なものなら作れそうな材料が揃っている。
「チャーハンでいい?」
そう尋ねれば、太郎ちゃんは照れたように笑って頷いた。
「なんでもいいよ、沙紀ちゃんが作ってくれるなら」
また、女たらしのような発言。
私は大人の余裕を見せるべくスルーを決め込んだ。
彼には座っててもらい、私は手早く調理し始める。
時々匂いを嗅ぎにふらふらと太郎ちゃんがキッチンを見に来ては、私の隣でぴったりとくっついて見てくる。
「……向こう行ってよ」
シッシッと手であしらってみれば、彼は何故か頬を緩めた。
「なんか、こういうのいいね」
なんてマゾっ気のある言葉を発する太郎ちゃん。
引いた目で見ても、それすら嬉しそうだ。
「拾ったのが沙紀ちゃんでよかった」
そんな風に言われたら何だか照れてしまって、手元がおぼつかなくなってしまった。
無事に作り終えたらリビングのテーブルに運んでもらい二人並んで座る。
「いただきます」
きちんと手を合わせて挨拶する太郎ちゃんは育ちがいいんだろう。
ぱくりと一口食べると幸せそうに顔を綻ばせる。
「おいしいね」
「……ありがとう」
正直に感想をくれるから、私も素直に返すことができた。
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