第3話
「……ここが俺“たち”の家になります」
見るからに高級そうなマンションを首が痛くなるほど見上げてから、オートロックのエントランスを抜け、最上階の部屋の前で振り返った彼がそう言った。
「誰も、住むなんて──」
“言ってない”
そう言いかけるが、そんな言葉など耳に入っていない様子の彼。
私を掴んだ腕はそのままで、空いている左手で鞄から鍵を取り出してドアを開ける。
「ちょっと、待っててください」
靴を脱いで入って行った男の子は、向って左側の二つ目のドアを開けて入るとすぐに出てきた。その手に握られていたのはバスタオル。
そこで私は、自分が酷く濡れていることを再確認する。きっと化粧も崩れ落ちて、みっともないに違いない。
「寒いでしょ?とりあえず拭いて」
拭いて、なんて言った割にはバスタオルを広げて包み込んでくれる彼。髪から滴る雨水を優しく拭きとってくれた。
「シャワー使ってください」
ある程度水分をタオルで吸い取ってくれたあと、そう言って先ほど彼が入って行った扉へと案内される。
タオルを取った時にシャワーの水を出して温めてくれていたようだ。風呂場のドアが湯気で曇っている。
「……悪いよ」
初めて会った男の子の家に来ただけでも悪いことをしているみたいでビクビクしているのに……シャワーだなんて申し訳なさすぎる、と断ったけれど
「俺が拾ったんだから、お姉さんに拒否権はないよ」
にっこり笑った彼が洗面所に私を押しこめて
「着替えは五分後に持ってきます。それまでに入っていないと無理やり脱がしますよ?」
なんて不吉なことを言うから、彼が扉を出ていったと同時に服を脱ぎ始めた。
湯船に溜まったお湯はちょうどいい湯加減で、身も心も十分に温まったらおそるおそるお風呂場を出る。
洗濯機の上に乗せられていた、新しいバスタオルと彼のものであろう上下のスウェット。そしてコンビニの袋。その中を覗いてみれば新品の下着が入っていた。もちろん、女物の。
近くのコンビニで買って来てくれたんだろう。多分、上の下着はサイズが分からないから買えなかったとみた。
あのあどけない少年がコンビニで女物の下着を買うなんて、どれだけ恥ずかしかっただろうか。
そんなことを考えると、ここへ来て初めて笑みが零れた。
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