第8話:ナナミの提案

 そして、ナナミは言いにくそうに言った。


「ねぇ、その話断ったのよね?」

「いや、なんでだよ。もちろん了承したよ」

「あのさ、そんなおかしな話ある? それこそゲーム内のお話じゃないのよ。私の処女をもらってなんかそんなこと言う女どこにいるのよ。それに見た限り美人なんだから処女なわけないじゃない。きっとあんんた騙されているわよ」


 俺はナナミの疑うような発言に腹を立てる。


「ナナミはなんでそんなこと言うんだよ。先輩はそんな人を騙すような人じゃない」

「でも……私は何かがおかしい思うのよ。理由はわからないけど……」

「そんなの理由なんか簡単だろう。単純にナナミの嫉妬だろ?」

「勇也っ、調子に乗るのもいい加減にしなさいよ。私は真剣にあなたのことを思って忠告してあげたのに……それを嫉妬なんか……」


 ナナミは涙をこらえているのか、グッと歯を食いしばっていた。その様子に俺は少し冷静さを取り戻した。


「……悪い。浮かれすぎていた。確かにナナミの言った通りタイミングといい、ギャルゲーみたいな話の展開は現実味がないよな。もう少し詳しく先輩に聞いてみるよ」

「……そうして。それでも本当なら私も手伝うわ。きっと彼女になるのだろうし。でも、あなた社会人に入って全く女を抱いていないでしょ? ほぼ素人童貞と同じレベルよ」


「おいっ、相変わらず人の傷口に塩を塗る奴だな。まぁ反論は出来ないところが辛いけどな」

「ギャルゲーの要領であの手この手であなたを大人に成長さ・せ・て・あ・げ・る」


 俺はナナミの色っぽい様子に思わず生唾を飲んでしまったのだった。早く自分のモノをしごいて楽になりたい。けれど、こいつがいる限りどうしようもできない。トイレでするか……そんなことばかり頭をめぐっていた。とりあえず、落ち着くためにシャワーを浴びることにした。


 汗も流してスッキリした頭で出てくると、ナナミはベッドで無防備に寝ていた。これは誘っているのかと勘違いしてしまい、寝ているナナミの胸を少し触ろうとした。


 そのとき、俺のスマホが鳴った。ナナミは起きて寝ぼけているようだった。


「えっ、あなたのその棒で私を満足させて?」


 おいおいどんな夢見てるんだよ。勘弁してくれよと俺は邪まな気持ちを抑えて、スマホを見た。先輩からだった。明日の夜、仕事が早かったら飲みに行こうというお誘いメールだった。


 マジか。こんなに憧れていた先輩とトントン拍子に嬉しさを覚えつつも、ナナミに忠告されたようにあまりにも上手くいきすぎのような気もする。これは本当に団されている可能性だってありそうだ。あまり調子に乗らないように気をつけなければと思った。


 ナナミに話すべきかどうか悩んでいると、ナナミが俺のスマホをひょいっと奪った。


「はいはい。大好きな先輩からでしょ。すぐ顔に出るんだからっ。で、もうお誘いなんて早いわね。やっぱり胡散臭いわよ」

「……そうなんだけど……でもさ、俺に彼女ができるチャンスだからいいんじゃないかな?」


「まぁね。でも、明日早速私の処女を奪ってとか言われたらどうするのよ? ちょっと練習していた方がいいんじゃない?」

「えっ」


 俺は素っ頓狂な声を上げて、ひっくり返ってしまった。


「ちょっと、童貞じゃあらまいしそんな反応やめなさいよ。特別に課金なしで私の胸触らせてあげるわよ」

「マジで……いいのか?」


 俺は興奮して喜んでいることがバレないように必死に落ち着いた声を心掛けた。


「やっぱり、あんたはあれね。他の男と違うわね。すぐにがっつかないんだから」

「まぁな」


 内心あんなことやこんなことまで想像していた俺だったが、正直バレなくてよかったとホッとしていた。けれど、今から練習台になるというのに、ナナミはなぜか嬉しそうだった。俺たちのちょっとエッチな練習が始まったのだった。

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