第6話:先輩からのまさかのお願い
周囲を探したが、どこにもナナミの姿はなかった。焦りもあり、ガラにもなく園内を走り回ってしまったせいで、汗が止まらない。
ベンチに座り自動販売機で500ミリの炭酸飲料水を買い、一気飲みした。
「ぷはぁーうめぇ。こんなにもうまかったかな」
あまりのおいしさに1人呟いてしまうと、急に視界が真っ暗になった。
「だ~れだ~」
この鈴の音の声は彼女に違いない。
「先輩……」
「当たり~。さすがだね。高校時代と反応が全く変わらないね。顔熱くなったよ?」
俺の目から先輩は手を離すと、先輩は高校時代とは変わらない笑顔でコロコロと笑っている。俺はドキドキしてしまっていた。昔から、俺をこんな風にからかってくるのだが、俺にとっては嬉しくしてたまらなかったのだ。
「あの……仕事は?」
「あれは、今日たまたま後輩からバイト頼まれたからやってただけだよ。これでも私社会人なんですけど」
プンプンと怒っているアピールなのだろうけど、俺にとっては逆効果である。かわいいとしか思えない。
「……俺も社会人なんだから、当たり前でしょうよ」
「フフフ、そうだよね。なんだ。面白くない。昔みたいにもう騙されてくれないんだね」
俺は思わず下を向くと、先輩は下から顔を覗きこんだ。あまりの至近距離にますます俺の顔は赤くなっていく。このままではダメだ。
「そうだ。ナナミ、あの……どこに行ったか知りませんか?」
笑っていたはずの先輩の表情が一気に曇り、小声で俺に尋ねる。
「ねぇ……彼女なの……?」
「えっ……」
俺は答えに困ってしまう。ゲーム内の彼女ですなんて口が裂けても言えない。きっと頭がおかしくなったとしか思われないだろう。どうする。俺は何と言えばいいのかわからず、答えに困ってしまったのだった。
「うっ、答えられないんだ。勇也君って悪い男だったんだね。知らなかった」
またからかうように、俺の頭をガシガシと撫でる。先輩はスキンシップが激しいから困る。
「え……説明すると長くなるっていうか……」
「じゃあ勇也君って、彼女じゃない人とでもあんなキスできるんだね」
ヤバイ。間違った。きっとチャラ男のやりチンとでも思われてしまっただろうか。俺は変な汗が背中を伝っていくのがわかる。
「……それはあの……ですね」
動揺している俺とは真逆に嬉しそうな満面の笑みを向けて、先輩はとんでもないことを言い出したのだった。
「よかった。そんなチャラ男に変わってしまった勇也君にお願いです。私の処女をもらってくれないでしょうか」
「えっ、はぁ?」
予想もしていない先輩の提案に俺は戸惑ってしまい、ベンチがずり落ちてしまったのだった。
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