第4話:ナナミと遊園地

 朝起きると俺の横でナナミが裸で眠っていた。これ何の拷問だよ。お前みたいなロリ顔とか口では言ったがさすがにこんなに無防備でしかも……裸なんて我慢できるわけがない。本能のまま、胸に手を伸ばそうとした瞬間その手が掴まれる。


「はい。触りたければ課金してください」

「なんか一気に冷めたわ。いい」

「何よ。触ろうとしたくせに」

「目の前に胸があれば触るのが当たり前だろうが」

「何よ、その理屈……まぁいいわ。私に興味出てきた証拠だものね。であんた今日休みよね?」


 なぜこいつが俺の休日を知っているのだろうと不思議に思っているとナナミは鼻の下に指をこすり当てながら自慢げに言った。


「なぜわかるかって? そんなのあなたのゲーム状況を見ればわかるわよ」

「そうだよな。だと思ったよ」

「だから、今からデートに行くわよ」

「はぁ? 俺はゲームするんだよ」

「練習しないといつまで経っても生身の人間触れないわよ?」

「なんか言い方に棘があるな。わかったよ。どこ行きたい?」

「えっ……? 私に聞くの?」


 どうしたのかナナミは戸惑っている。これはこれでなんだかかわいらしい。


「そうだ。どこ行きたい。女の希望に合わせるのが俺のポリシーだ」


 なんてかっこいいことを言ったが要するに面倒くさくて自分が決めたくないだけである。


「……なら仕方ないわね。あのね……実は……遊園地ってとこ行ってみたい」


 恥ずかしそうにモジモジするナナミがかわいく見えてくる。マジでこいつ何歳なんだろうって違う。俺はあくまで設定の話を考えているだけで……自分自身に言い訳をする。


「遊園地か。俺も久しぶりだわ。けれど、ここに女物の服なんかないぞ」

「ふふふ。それはご心配なく」


 ナナミは笑うと、くるっとその場で回ると光の粒子に囲まれる。さすがはゲーム内のヒロイン? いや、人物だけあるだろう。白の花柄のワンピースに着替えていたのだった。かわいい顔のナナミによく似合っていた。


「似合うな」

「……何よ。もう彼氏気分なの? でも……悪くないわよ」


 そう言いつつもナナミは照れているのか恥ずかしそうだ。しかし、ピンク頭のツインテールは目立つよな。かわいいからまぁいいか。


俺たちは遊園地に向かうことにした。


 遊園地ではジェットコースターに乗ったり、コーヒーカップを回し過ぎて気持ち悪くなったりと普通に楽しんでいた。お昼にはホットドッグを俺が買ってきてやると、ナナミは美味しそうに食べた。ケチャップが唇の横についていたので教えてやる。


「ついてるぞ」

「……どこ?」

「あぁ、鈍くさいな。ここだよ」


 俺はケチャップを紙ナプキンで拭き取ってやった。なんだかんだで楽しい。付き合うってこんなだったかなと俺自身も楽しんでいた。本当の恋人同士である。ナナミも初めての遊園地で何もかも楽しいのかはしゃいでいるようである。


「……ありがとう。勇也、遊園地って楽しいね」

「あぁ、喜んでくれたみたいで連れてきたかいがあるわ。ってまさかのここでゆうや呼びかよ」

「当たり前じゃない。好感度が上がった証拠よ。おめでとう」

「なんか今のでデート気分が台無しだな。一気に俺現実に引き戻された気がするわ」

「ふふふ。所詮はゲームなのよ。ご愁傷様。でもなんで、普通に顔もブサイクでもないし、今見てる感じだと優男っぽいし彼女いないのよ」

「ほっとけよ」

「あっ、もしかして、高校時代の元カノとかが気になるとか拗らせ男子とか……?」


 微妙に違うが半分以上正解であることに、俺は苦笑いをする。


「まさか、あたりなの。やっぱりな」

「で、誰?」

「高校時代1個上の先輩だった黒島姫香先輩って言うんだけど、めっちゃ美人で生徒会長やっててすげぇ人で俺の憧れでな。スポーツもできて、無理やり先生に頼まれて書記になった俺にいつも優しくしてくれたんだ」

「ふ~ん。なんやかんや男子は先輩とか生徒会長とか好きよね。ゲームじゃなくて現実もテンプレばかりなのね」


 しらけたように話すナナミを見て、俺は興奮して話し過ぎたことを後悔した。あくまで今は彼女はナナミの設定なんだ。だから、ナナミを第一に考えなくてはならない。


「ごめん。ナナミ。嫉妬した?」

「……っ、何よ。その優しい憐れんだ目で見るのはやめなさいよ。誰が嫉妬なんかするもんですか。あの黒い病院みたいなところへ行くわよ」


 ナナミは血相を変えてお化け屋敷の方へ向かっていた。俺は得意だけどナナミは大丈夫なのか? 俺の心配は当たることになったのだった。












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