15話 真夏のお正月
わたし達がこの街、アクベンスに着いてから1週間ほどが経った。
魔物の討伐依頼をこなしたり、海の幸を堪能したりしているうちにこんなに時間がたっちゃった。
そんなことを考えてながら街を歩いていると、露店がやけに賑わっているのに気付いた。
「ミリアちゃん、なんだかやけに賑わってるけど何かイベントでもあるの?」
そうミリアちゃんに聞いてみると、なるほどといった表情で応えてくれた。
「ああ、カオルはここでの年越しは初めてか。数日後に年越しの儀式とお祭りがあるんだよ、だから露店も賑わってるってわけだ」
真夏なのに年越し?って一瞬思っちゃったけどそういえばここは日本とは違うんだから年越しが夏でもおかしくないね、地球でも南半球は夏が年越しだけどそんな感じかな。
「そっか、この世界に来て初めての年越しかー、こっちでもお餅とか年越し蕎麦とか食べれるのかな?」
何となくつぶやくとミリアちゃんが話題に食いついてくる。
「ああ、ツバサから聞いたぜ。異世界の日本って国の料理だろ?あたし達の世界でもそれらしい物はあるな」
「そっか、それじゃあ年越しの日はお蕎麦が食べたいな。勿論みんなと一緒にね」
「ああ、任せときな。となると今のうちに食材を買い足したほうがいいかな、付き合ってくれるか、カオル?」
「うん、大丈夫だよ」
そうして、ミリアちゃんと一緒に年越しの準備をするわたし達だった。
そうして迎えた今年最後の日、今は年越し蕎麦も茹でおわって今から食べようとしている所。
「それじゃあみんな今年もお疲れ様!今日の夕飯はカオルの提案で蕎麦にしたぜ」
ミリアちゃんがリーダーとなってみんなに話しかける。
「今年は何よりカオルがあたし達のパーティーに加わったことが大きいな、まだ1ヶ月も経ってないのにすっかり馴染んでる。これもカオルの魅力のおかげかもな」
ミリアちゃんはそう言うけど、わたしからするとみんなの方が魅力的だった。
「そ、そんな恥ずかしいよ……わたしがこうやってみんなと居られるのはミリアちゃん達のお陰だよ。」
「だって、わたしの秘密を合ったばかりなのに受け入れてくれて、この世界でどうしていいか分からないわたしを助けてくれたのはみんなだもん」
そう言うと、4人からそれぞれ言葉が返ってくる。
「大事なのは心の有り様だからな、カオルが女の子として生きたいならあたしもそう接するさ」
「まあ、カオルさんの秘密を知ったときにはかなり驚きましたけど……まさか身体が男の子だなんて思いもしませんでしたからあの時は乱暴な手段を取ってしまってすみませんでしたわ」
「カオルお姉ちゃんはずっと私のお姉ちゃんだよ!」
「薫、お前と会えたのは僥倖だった。俺もこの世界に来た当初は何もわからず薫と同じ気持ちだった、だがミリア達に助けてもらってここまで生き延びる事ができたんだ。今度は俺が薫を助ける番だな」
「みんなありがとう、そうだね、みんなと出会えたことはとても良かったんだと思う。そんなみんなと一緒にこうして年越しを迎えられるのはとっても嬉しいな」
言ってて恥ずかしくなってきたのでごまかす為に話題を変えよう。
「それじゃあそろそろお蕎麦食べちゃおう、長く話してると冷めちゃうよ」
「ま、それもそうだな。じゃあ、いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
そうして年越し蕎麦も食べ終わってもう眠ろうかという頃、翼くんがわたしに話しかけてきた。
「薫、今年……と言っても数週間の間だったが世話になった。来年もよろしく頼む」
そう言われてわたしも感謝の気持ちを伝える。
「こちらこそありがとね。同じ日本から来たって人が居てくれるのは心強かったよ」
それじゃあ、と言って翼くんと別れてわたしの部屋に向かう。
そして一夜明け、新年の初日。わたしが最初に話す言葉は決まっていた。
「明けましておめでとう、今年もよろしくお願いしますね」
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