16話 異世界流バレンタイン?
異世界での新年を迎えてから数日後、街も新年ムードから落ち着いてきた……と思ったら食材店はまた別のイベントで盛り上がってるみたい。よく見ると「ローレシア祭」という言葉が結構見かける、どんなイベントなのかな、と思ってミリアちゃんに聞いてみる。
「ねえミリアちゃん、ローレシア祭ってどんなイベントなの?」
「ああ、女の子が好きな男の子に菓子を渡す祭りだな。なんでもちょっと昔にローレシアって女性が始めたイベントらしい」
えっと、それってまるで日本のバレンタインのような……そんな事を思っているとミリアちゃんから爆弾発言が飛び出した。
「で、カオルはツバサに渡さないのか?菓子」
「え、えっと!確かに翼君の事は好きだけど、それは恋愛的な意味じゃ無いっていうか……あうう」
そうしどろもどろになって答えると、ミリアちゃんが笑って話す。
「あはは、カオルは可愛いなぁ。この祭りは別にそんな重い意味はないよ、友達同士で贈り合ったり女の子同士で贈り合ったりも普通にあるのさ」
ますますバレンタインじみてきたような……?
それじゃあわたしも翼君に何か贈ろうかな、せっかくだしチョコレートを贈ろう。と思っていたのだけど。
「それじゃあわたしはチョコレートを贈ろうかな」
「……チョコレート?何だそれ?」
……どうやらこの世界にはお菓子としてのチョコレートは無いみたいだった。
「あれ、チョコレートって知らない?黒かったり茶色だったりする甘くて口の中で溶けるお菓子」
「……ああ、もしかしてブラックショコラの事か?甘くはないがカオルの言ってる物に近いな」
ミリアちゃんに詳しく聞いてみた結果、どうやらチョコレートはこの世界では薬の扱いらしい。苦いからお菓子として食べるのは考えられて無かったんだって。
日本のバレンタインの事について話して、翼君にチョコを贈れないか聞いてみる事にする。
「……なるほどな、ツバサも似た事言ってたな。わかったよ、カオルの為にひと肌脱ごうじゃないか。任せときな!」
やっぱりミリアちゃんは頼もしい、わたし達のパーティーのリーダーなだけはある。
そうしてブラックショコラと甘味料を買って、バレンタインチョコを作り始めたわたし。まずは砂糖を混ぜたものを作ってみる。そして試食してみるも……
「これは……苦いね。カカオ100%のチョコでもこんなに苦くないよ」
どうやらブラックショコラは地球のチョコレートとは違い、簡単にお菓子にはなってくれなさそうだった。
「それじゃあミルクを混ぜて、蜜も足しちゃおうかな」
そうして試行錯誤を繰り返し、やっとビターチョコぐらいの甘さのチョコが出来上がった。けど翼君に贈るには何かが足りない……と思っていたら、妙案を思い付く。
「ひょっとして……魔法で甘くできないかな?」
思い付いたら早速実行、チョコにおまじないをかけてみる。
「あまーくなーれ♡……って流石に無理かな……?」
と呟いた直後、チョコを入れていた容器が淡く赤色に発光する。すぐに光は収まり、見た目は変わらないチョコが残る。それを恐る恐る試食してみると……
「うん、甘い!まさか本当に上手くいくなんて……!治癒魔法じゃ無いのになんで上手くいったんだろ?」
不思議に思うわたし、けど結果は大成功だったので良しとする。
そうしてローレシア祭当日、朝起きて皆で朝食を食べてから翼君のもとに女性陣とわたしがプレゼントを渡しに集まる。
「ほらツバサ、ローレシア祭のプレゼントだ。アリスと一緒に作ったクッキー、食べてくれ。大雑把で良い料理なら得意なんだがな……菓子は専門外だ」
「ツバサお兄ちゃん、いつもありがとね!ミリアお姉ちゃんと一緒に作ったよ」
「
3人に続いてわたしもプレゼントを渡す。
「翼君、わたしからもプレゼント。頑張ってチョコを作ってみたんだ、甘いのが苦手じゃなかったら食べてくれると嬉しいな……なんて」
皆がプレゼントを渡し終えると翼君はいつも通りの冷静さで話す。
「4人とも、感謝する。大事に食べさせてもらう」
そういった翼君の顔がちょっと赤くなっていたのはわたし達じゃないと気付けなかったかもしれない小さな変化、やっぱり翼君も男の子だね。なんて思って微笑んでいるとミリアちゃんからわたしにもクッキーの入った袋を渡される。
「カオルにもプレゼントだ、言っただろ?友達や女の子同士でも贈り合うって、どう受け取るかはカオル次第だが受け取ってもらえると助かる。なにせ作り過ぎてな……」
わたしはそれを受け取って言葉を返す。
「ミリアちゃん、ありがとねっ。わたしからも3人にプレゼント、友チョコ、だよ」
そうして皆にプレゼントを渡し合い、その場で食べあうわたし達。
「カオルのチョコレートとやら、美味しいな……!ブラックショコラが菓子になるとは思わなかったがこれはイケる!」
「ユニお姉ちゃんのカップケーキも美味しいね!」
「カオルさんのお菓子、手間が掛かってるのが判りますわ。ツバサさんは幸せ者ですわね、なんて」
「もう、ユニちゃん。からかわないでってばっ!」
「いや、俺からも改めて礼を言う。ここまで手のかかっている物を貰ったのは初めてかもしれない、美味しかった」
そんな風に、今日も楽しい1日が始まったのだった。
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