11話 ついに治癒能力が本領発揮したよ

 結局、料理会が終わるのは夜も深い時間帯になった時だった。

 コカトリス肉は唐揚げと照り焼き、オーク肉は生姜焼き(正確には生姜に近い食材みたいだけど)とトンカツ、ミノタウロス肉はステーキと焼き肉にしたよ。

 夕ご飯で作ったうちの一部を試食してみたけど全部美味しかった、全員料理ができるお陰で調理ミスとかが無かったからね。

 大体の傾向として、ミリアちゃんは肉料理が得意、ユニちゃんはレシピ通りに拘るタイプ、アリスちゃんはアレンジャー、翼くんは手早い調理に慣れている。って感じみたい。

 こういう所でもそれぞれの性格が現れるのは面白いね。


 そうして翌朝、借家の鍵を返していよいよこの街から旅立つときがやってきた。


「よしっ、みんな準備はいいか?」


 ミリアちゃんがわたしたちの方を向いて聞く。


「ええ、問題ないですわ」

「おっけーだよ、ミリアお姉ちゃん」

「ああ、問題ない」


 わたしも元気に返答する。


「大丈夫だよっ」


「それならアクベンスに向けて出発だ、長い旅になるが気を引き締めていこうぜ!」



 そうしてわたし達の旅が始まって半日、そろそろ野営を考える時間になってきた頃、冒険者らしいお兄さんが慌てた表情でこちらに向かってきた。


「そこのお嬢ちゃんたち! 上級の解毒ポーションを持ってないか?!」


 お兄さんの話によると、デススコーピオンという魔物にパーティーの仲間が刺され、魔物の毒で今生死をさまよっているところらしい。


「困りましたわ、わたくし達も上級の解毒ポーションは用意していませんわね……」


 ユニちゃんが困ったように言う。

 それならば、とわたしは治癒能力でなんとか出来ないか提案してみる。


 「あの、わたし治癒魔法が使えるんです。治療できるかもしれないのでその人の所まで案内してもらってもいいですか?」


 そう言うと、お兄さんは疑惑が混じった表情で話す。


「やつの毒はかなり強力で並の治癒魔法じゃ解毒できないんだ、悪いがお嬢ちゃんで何とかできるとは思えねぇ」


 すると、ミリアちゃんが怒ってお兄さんに怒鳴った。


「こう見えてもカオルは立派な治癒魔法使いなんだ、うだうだ言ってないで早く案内してくれ! 時間が無いんだろ?!」


 お兄さんはすまなそうに言った。


「すまない、外見で判断してはいけなかったな。案内するから付いてきてくれ」



 そうしてお兄さんに付いていくと、テントが見えてきた。


「この中に毒でやられた仲間がいる、すまないが治療をお願いできないだろうか」


 わたしがテントの中に入ると、若い女性がとても苦しそうにうめき声を上げて倒れていた。


「エリー、今治癒魔法使いを連れてきた! お嬢ちゃん、治療を頼む!」


 わたしはエリーと呼ばれたお姉さんの近くに行き、大きく腫れた刺され跡に手をかざして詠唱を始める。


「世界樹の精霊よ、この者の毒を消し去る力をください! キュアー!」


 詠唱が終わると、以前男の子の傷を治した時と同じ感覚がわたしの身体の中を流れ、その流れがエリーさんに移っていき身体全体を光らせる。

 そうして10秒ほど経ち、光が収まるとエリーさんが意識を取り戻したようだった。


「うーん……あれ、私デススコーピオンに刺されて、それから……あら、スタン。それにその子供は?」


 スタンと呼ばれたお兄さんがエリーさんに説明してくれた。


「この子はエリーの毒を治療してくれたんだよ。本当に助かった!」


 それを聞いたエリーさんが、お礼の言葉をわたしに言ってくれた。


「有難う、お嬢ちゃん。貴方は私の命の恩人だわ。名前を聞いてもいいかしら?」

「薫って言います」

「カオルちゃんね、有難う。お礼がしたいわ、私達にできる事があればできる限り応えるわよ」


 そうエリーさんが言ってくれる、けどわたしにとっては自分の力で誰かを助けることができただけで十分だった。


「いえっ、エリーさん達の感謝だけで十分です。とにかく無事で良かったです」


 そう言うと、エリーさんは微笑んで言った。

 

「控えめねぇカオルちゃん、こういう時はもっと欲を出してもいいのよ? けど今回はその言葉に甘えようかしら」


 スタンさんからもお礼の言葉を貰う。


「カオルさん、有難う。本当なら何らかの謝礼をすべきなんだがあいにくと旅の終わり際で手持ちが少なくてね、感謝の気持ちだけで済まないが受け取ってくれるかい?」


 その言葉に、わたしは微笑んで返す。


「旅ですからこういうことも起きますよ、困ったときはお互い様ですっ」


 そうして治療を終えてテントから出ると、ミリアちゃん達が待っていた。


「カオル、その様子だと無事治療できたみたいだな」

「うん、心配だったけど治療できたよ」


「それにしても、やはりカオルさんは高位の治癒魔法使いなのですね。わたくしでは解毒魔法は初級でも怪しいですのに」

「みんな強いから上位の治癒魔法を使う機会が無かったけど、きちんと使えたみたい」


 そう言うと、みんなから笑いが起こったよ、事実オーク討伐の時はわたし何もできなかったからね。



 その後、エリーさん&スタンさんと別れたわたし達は野営を始めた。


「よし、テントも張れたな。組分けはどうする?」


 ミリアちゃんの言葉にはっとする、借家にいた時は1人1部屋あったからいいけどテントだとみんなと一緒に寝ることになる。


 なんて悩んでるとミリアちゃんが笑って話してくれる。


「あはは、大丈夫だぜ、カオル。あたし達と一緒に寝な。ツバサは相変わらず1人で寝ることになっちまうがな」

「……構わない、1人は慣れている」


 そんなやり取りがありつつも、無事に野営の準備ができたみたい。初めての旅だったけど初日はハプニングがありつつも無事に終えることが出来そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る