第4話 β

 結局、夜まで式場にいた。

 牧師だか神父だかわからない人が来て閉まる前に、出た。

 そこそこの、雨。

 仕事場に、戻ろうか。部下にケーキ。大丈夫。忘れてなかった。駅前まで降りて、コンビニ。

 仕事場へ向かう。

 その道の、真ん中に。

 誰かが、転がっている。最初は、猫かと思った。ちょっと大きい。

 人だった。


「大丈夫ですかっ」


 駆け寄る。 轢かれているのなら、処置をしないと。

 ええと。首筋。

 足。手。


「大丈夫じゃないです」


「ん?」


 聞き慣れた声。


「大丈夫じゃない」


 部下だった。

 心配していたぶんが、多少複雑な気分になって戻ってきた。蹴り飛ばす。


「ふぐぇ」


 部下が半回転して、顔が地べたにくっつく。


「なんでここにいるのよ?」


「しりませんよ。しりません。わたしはなにも」


 そのまま死にそうな勢いだったので、起こそうとした。


「さわらないでっ」


 大きな声だったので、びっくりした。

 部下。ゆっくり、半回転する。


「さわらないで。わたしに」


 小声。ばかみたいないつもの彼女とは、違う。よわよわしくて、どこか奥ゆかしいような。それでいて、儚い。


「あ。ケーキ」


 部下。私のさっき買ったケーキを見つける。勝手に開けて。

 勝手に食べ始める。雨なのに。うまく身体で隠して、丸まって食べてる。


「んまい。これ、わたしにですよね?」


 美味しそうに食べる部下の横顔には、さっきのよわよわしい感じは残っていなかった。


「違うわ。結婚する彼と食べようと思ってたの」


 また。

 また嘘を。

 私はいつも。


「あ、ごめんなさい」


 彼女。食べかけのケーキを持って、膠着こうちゃく状態。


「いいのよ。あげる。ケーキはまた買えばいいから。無事でよかった」


 無事なんかじゃない。

 私が。


「明日。休みよね?」


 彼女。もうしわけなさそうに、頷く。


「結婚式あるから。来てね」


「雨が降るのを祈ってますよ」


 言った彼女の目は、見えなかった。

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