第3話 α
上司のことが好きだった。部下のくせに。仕事が少しできるからって、上司にべたべたして。そして、上司が結婚することを知った。
どうしようもない。
好きなひとに、好きなひとがいる。それだけで、世界が爆破されるよりもひどい気分になる。もう世界なくなってしまえばいいのに。
「はあ」
それでも、仕事はする。世界がなくなることよりも、仕事がなくなってしまうほうがこわい。上司といられる時間がなくなってしまうから。
「はああ」
ため息しか出てこない。
仕事は、辞めるべきだった。わたしも好きだけど、誰かのものになる、その好きなひとに、その隣に。いるという事実。耐えられない。わたしには、無理。
独占欲なのだろうか。
何が、この気持ちを呼び起こすのだろうか。
毎晩、毎日、うつうつと考えて。それでも、答えはでなかった。上司のいちばん近く、その隣にいたい。話しかけて、話しかけられたい。それ以上、それ以外のなにも、望んでいない。それだけが唯一絶対の願い。そしてそれは、かなわない。
「ああ」
これだから。よくない。
ムダな考え事をすると、仕事がすばやく終わってしまう。仕事。なくなったら。ここにいられなくなる。
晴れていたら、そこら辺を適当に走って、むりやり頭のなかを空っぽにできるのに。雨だと、それもかなわない。
いや。
もう、いいや。
雨だけど。
走るか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます