第3話 α

 上司のことが好きだった。部下のくせに。仕事が少しできるからって、上司にべたべたして。そして、上司が結婚することを知った。

 どうしようもない。

 好きなひとに、好きなひとがいる。それだけで、世界が爆破されるよりもひどい気分になる。もう世界なくなってしまえばいいのに。


「はあ」


 それでも、仕事はする。世界がなくなることよりも、仕事がなくなってしまうほうがこわい。上司といられる時間がなくなってしまうから。


「はああ」


 ため息しか出てこない。

 仕事は、辞めるべきだった。わたしも好きだけど、誰かのものになる、その好きなひとに、その隣に。いるという事実。耐えられない。わたしには、無理。

 独占欲なのだろうか。

 何が、この気持ちを呼び起こすのだろうか。

 毎晩、毎日、うつうつと考えて。それでも、答えはでなかった。上司のいちばん近く、その隣にいたい。話しかけて、話しかけられたい。それ以上、それ以外のなにも、望んでいない。それだけが唯一絶対の願い。そしてそれは、かなわない。


「ああ」


 これだから。よくない。

 ムダな考え事をすると、仕事がすばやく終わってしまう。仕事。なくなったら。ここにいられなくなる。

 晴れていたら、そこら辺を適当に走って、むりやり頭のなかを空っぽにできるのに。雨だと、それもかなわない。

 いや。

 もう、いいや。

 雨だけど。

 走るか。

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