第2話 β
午後の仕事を軽く蹴飛ばし、式場に向かう。
誰にも言ってないし、誰も来ない。
雨。自分の今の気分に、ぴったりだった。屋根や地面に当たる音。
私の、今は。
誰もいない。
隣にも。そして、どこにも。
恋人がいなくなってから、もう5年経つ。たぶん、もう、死んだだろう。最初の1年ぐらいは、なんとなく生きてるかもしれないなんて、ドラマや漫画みたいな妄想をしていたけど。長くは続かなかった。彼は死んだ。事実は、それ以上でもそれ以下でもない。生きていたら私のところに来るだろう。でも、来ない。だから死んだ。それか、私ではない誰かのところにいる。
式場。
誰もいない。
いまさらになって、仕事を押し付けてきた部下に、ちょっとだけもうしわけない気持ちになってきた。ケーキか何か買って、仕事場に戻ろうか。そう思っただけで、足は動かなかった。誰もいない式場。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます