第2話 β

 午後の仕事を軽く蹴飛ばし、式場に向かう。

 誰にも言ってないし、誰も来ない。

 雨。自分の今の気分に、ぴったりだった。屋根や地面に当たる音。しずくの感覚。少なめの光。

 私の、今は。

 誰もいない。

 隣にも。そして、どこにも。

 恋人がいなくなってから、もう5年経つ。たぶん、もう、死んだだろう。最初の1年ぐらいは、なんとなく生きてるかもしれないなんて、ドラマや漫画みたいな妄想をしていたけど。長くは続かなかった。彼は死んだ。事実は、それ以上でもそれ以下でもない。生きていたら私のところに来るだろう。でも、来ない。だから死んだ。それか、私ではない誰かのところにいる。

 式場。

 誰もいない。

 いまさらになって、仕事を押し付けてきた部下に、ちょっとだけもうしわけない気持ちになってきた。ケーキか何か買って、仕事場に戻ろうか。そう思っただけで、足は動かなかった。誰もいない式場。

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